エピソード101 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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第4章 倒されなかった世界線
エピソード101
そしてれいはというと、この道中によって《ベギラマ》の魔法を会得した。
れいが《ベギラマ》を放つと、《いかずちの杖》によるものよりも少し大きな炎の帯が飛び出した。それを見てようやくアンリは、「れいさんってすごいのね!」と理解したらしかった。
教会のアンリの友人たちは、れいにも話を聞きたがった。れいはこれまでの冒険譚や、素朴なサランの村のことなどを、かいつまんで聞かせてやる。
「美しい街に行きたい」と話していると、次の目的地にはガーデンブルグを勧められた。
なんでも、女性が王を務め、ほとんど女性しか暮らしていない城下町だという。そんなわけだから国全体が美意識に彩られ、美しい場所なのだとか。「男性を入れたくない」という方針がゆえに女性ばかりなので、入国は容易ではない。しかしれいなら行けるだろう、とのことなのだが・・・
教会の仲間たちにも、宿屋の主人にも別れを告げる。
北に進路を取る。やがて山が見えてきた。東に反れなければならないのだろうか。
道なりに反れながらしばらく歩くと、辺境の小屋を見つけた。
何か得られるものがあるかと寄ってみる。
寡黙な木こりが、犬とヤギだけをお供に一人で住んでいるのだった。
彼は見ず知らずのれいに、ヤギのチーズでもてなした。
ガーデンブルグに行きたいのだが、道なりで良いのか?と念のために尋ねると、
「違うよ!」と木こりは慌てたように教えてくれた。
道なりに進んではいけないのだ。れいが東に折れたあたりで、そのまま北に直進する必要があるのだった。
れ「でも、山にぶち当たってしまいそうです」
木「そうだよ。山の奥にガーデンブルグはある」木こりは、賢そうな大きな犬をなでながら言った。
れ「そんなところに城があるのですか?」
木「そんなところだから、彼女たちは城を建国したのだろうよ。
争いを好まぬ人たちは、少々不便だろうが辺境の地に居を構える。
・・・私は、その気持ちがわかるがね。俗世のものには理解不能かもしれないよ」
山を越えなけえればならないし、立札も道もない。なるほど、ガーデンブルグに行くのは難儀だという噂はこういうことか。
木こりは道を教えるだけでなく、れいにヤギのチーズを幾らか手渡した。彼にとって貴重な食料をだ。
れ「本当に良いのですか?」
木「あぁ、貴重なもんだから大切に食べてくれよ」
れ「貴重なものだと察しています。だから、本当に良いのですか?」
木「貴重なものだから、贈りたいこともあるのだよ。はっはっは」
れいはとても意外に思った。
辺境に住む者は、人嫌いで偏屈だという印象がある。木こりを見つめるれいの目は、その内心を物語っていた。察して木こりは言った。
木「すべての人間を嫌うわけではないよ。
手を差し伸べたいと思う人間も、いる」
れ「・・・!」
れいの心は、少し暖かくなった。食べたチーズは、もう熱量に変わったのだろうか。
れいは木こりに礼を言って、道を引き返した。
小屋を出る際、ずっと静かにしていた犬が「ワン」とれいに吠えた。
「気を付けて」と言っているような気がした。