エピソード104 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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更新日:8月25日
エピソード104
城に近づくにつれて、店っぽい家が増えてきた。
あれは食堂ではないだろうか。食べ物は確保したが何か飲みたい。
店でくつろぐ住民の姿も見える。
れ「こんにちは。お茶が飲めますか?」
店「あらいらっしゃい」この町は皆、愛想が良いようだ。食堂の店主は年配の女性だが、服装も笑顔も若い人たちと大差なかった。
れいがテーブルに座ると、先客だった2人の住民が話しかけてきた。
女「あなた旅の人なの?ねぇ、こっちのテーブルにこない?」
れ「えぇ、いいのですか?」うれしいお誘いだ。
店主が注文を取りにきた。
店「あまりたくさんの種類はないのよ。甘いのと苦いのと、どっちがいいかしら?」
れ「えぇと、甘いのをお願いします」疲れているときは甘いものが欲しい。
店主はほどなく、れいにマスカットのジュースを持ってきた。ここの人々は緑色が大好きなのだろうか。
若い女性の一人が、興味津々という笑顔で話しかけてくる。
女「ねぇ、あなたは何て国から来たの?」
れ「サントハイムの、サランという田舎の村です」
ラ「ふうん。聞いたことないわ。私はラナ。こっちはルナよ。妹なの」

れ「えぇ、山の上の田舎の村なんです。私はれい」
ル「えぇ?サランって何か、聞いたことがない?」
ラ「えー、知らないわ」
ル「何か伝説とかおとぎ話とか・・・そんなんだった気がするけど」
ラ「似たような名前がいっぱいありそうだわ」
ローズの噂が届いているのかもしれない。が、れいは何も言わないことにした。
ラ「ねぇ。そのサランって町とここじゃ、どっちがいいところ?」
れ「サランも良いところですけど、ガーデンブルグのほうが良いところな気がします!」
ラ「うふふ。それなら帰ったらそこをガーデンブルグみたいにすればいいのよ」
なるほど。
れ「ガーデンブルグは、他の国とは貿易しないのですか?」
ラ「そうね。たまには荷馬車が来るけど。
だって大抵のものは自分たちで作れるじゃない?
別に貿易って必要ないのよ。
キラキラの宝石とか、スパイスとかはあんまりないの。でも宝石欲しいからって男の商人を入れたくはないし」
ル「男の人がキライなのよ、わたしたち」
れ「そのようですね。
私も男の人、少し怖いです」
ル「サランだっけ?その村もそうしたらいいわ。
大抵のものは女だって作れるのよ」
ラ「武器とかは、マスタードラゴン様が運んできてくれるしね」
れ「マスタードラゴン?」
ル「こら!それは言っちゃいけないことでしょ!」
ラ「あちゃぁ。今のは聞かなかったことにして!」
そうは言われても、とても気になる言葉だ。この旅で一番くらいに。
れ「マスタードラゴン・・・」れいは好奇心を抑えきれず、その言葉を繰り返してしまった。
ル「お城の女王様か誰かが話してくれるかもね」ルナはれいの気持ちを汲んで言った。
れ「そろそろ、行こうかな」
ラ「うふふ。私のエッグタルトあげる」ラナは笑顔でれいにスイーツを差し出した。
なんて平和で幸福感に満ちた国なのだろうか・・・!
マスタードラゴンとやらが気になるし、そろそろお城に行ってみるか。
迷路をくねくねと曲がり、もう1つ小川を越えると、お城に辿り着いた。
お城には無駄に広い前庭があり、それは非常に色鮮やかに花が植えられているのだった。
花の色で模様を描いている。花でアートを描いているのである。
どんな繊細な庭師がいるのかと思ったら、この庭園を手入れしているのは、なんと鎧を着た女兵士だ!

れいはガーデニングの美しさに感銘を受け、思わず彼女に話しかけた。
れ「あなたがこの庭を手入れしているんですか?」
兵「えぇ、私だけではないですけれども」
城門の兵士は退屈しのぎにダンスを踊り、城の兵士は退屈しのぎにガーデニングをするらしかった。
兵士というと、女といえども無骨な印象を受けるが、ガーデンブルグの女兵士たちは、強い上に芸術や美意識に長けるのだった。容姿も美しい。この城において兵士は、カーストの底辺ではない。とても人格の成熟した人々が請け負っている。おしゃれにも芸術にも飽きたので体も鍛えることにした、という感じだ。そして、体を張ってでも人を守る慈愛があるのだ。
兵「旅のお方。お城に入られるのですね?」
れ「えぇ。かまいませんか?
通行証をお見せしたほうがよろしいですか?
兵「いいえ。この庭への関心の言葉を、あなたの身分証に替えさせていただきましょう♪
城内は私がお付き添いします。あなたを守ることにもなりますし、城内を安心させることにもなります」
れ「えぇ、お願いします」
ユ「私はユーリ。お城の内外でお困りごとがあればおっしゃってください。
大抵のことはお助けや仲介が可能だと思います」やはり優し気に微笑みながら言った。