エピソード108 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード108
ユ「れいは、教会にお祈りをする習慣はお持ちですか?」
れ「このお城にも教会があるのですか?」
ユ「はい。小さなものですが」
ユーリは最後に、れいを教会へと案内した。
話の通り、小さなシンプルなものだったが、他では見慣れない特徴がある。
祭壇に祀られているのは、メシア像でも聖母像でもないのだ。
赤い髪の美しい女性の像が、祀られている。
れ「赤い髪の・・・?」
シ「これはこれは、ガーデンブルグの救世主様。
メシアでも聖母でもない像を祀る教会は、珍しいことでしょう。
この赤い髪の女神は、精霊ルビスといいます。遥か昔からこの世界を見守る者です」
れ「え?でも、神様は銀色のドラゴンではないのですか?」
し「はい。それもまた神様です。神様というのは一人ではないのでしょう。
あまり確かなことはわかりませんが・・・
精霊ルビスは、戦いの神と言われています。
戦いといいますか、武器を手に取って旅立った者を、見守る神なのです」
れ「アライゾの、赤い大地にも精霊ルビス様はいますか?」れいは、セーニャを導いた者が『赤い髪の女神』と名乗っていたのを思いだした。
シ「わかりませんが、世界各地にお告げを下していても不思議ではないでしょう。
神は、あらゆる場所に遍在すると言われています。
私たちガーデンブルグの民は、亡命の歴史を持ちます。
遥か昔、マーディラスの近くに私たちは国を持っていました。隣国が戦争を仕掛けてきました。
私たちの国の王は、戦争を嫌いました。しかし、戦わないことで民が滅びることも許せません。
苦悩する王に話しかけたのが、精霊ルビス様でした。
『国を捨て、武器をとり、旅立ちなさい。北の地へ、北の地へ。
人ではなく魔物に刃を向けることなら、まだ許容できるでしょう?
それとも剣を持つ腕力がありませんか?魔物と対峙する勇気がありませんか?』と。
北の地に何があるのか、山が立ちふさがるだけじゃないかと、何もわかりませんでしたが、王はルビス様の言葉に従いました。民の幾らかが王に着いていきました。女も剣を持ちました。
皆で懸命に山を登りました。少ない食料を分け合いながら、疲れた者の背を押しながら、女も子供も命がけで山を登りました。
そして奇跡は起こりました。
北の山は、割れたのです。そして私たちは、隣国が襲ってくることのないこの盆地を手に入れることが出来ました」
ユ「神は、すがり祈る人を助けたりはしません。しかし、人が立ち上がろうとするとき、その背中を押そうとします」
シ「しかし、私たちの探求はまだ終わっていません。
学者は本を読み、シスターは心の夜空を見つめます。
武器を持つことは本当に正義なのか?拳を鍛えることは本当に善なのか?
自衛のために、愛する人を守るために握る拳は必要なのだろう、と私たちは捉えています。
しかし・・・
『自衛のためだ』という口実のもと、人々は際限なく大きな武器を持ちたがります・・・
人はなぜ、堕落してしまうのでしょう。この不毛な連鎖は、いつ終わるのでしょう・・・」
れ「・・・・・・・」
ユ「れい。あなたの武器や魔法を批判する意図はありませんよ」
れ「はい」