エピソード110
地平線の彼方まで何もない砂漠だ。
方向さえ教われば、噂のピラミッドはじきに見えてくるのだった。そして見えさえすればあとはまっすぐ進むだけである。
道具屋の言うとおり、アッサラームのそれよりもずいぶん小さなピラミッドだった。それにしたって建造には大勢の人が苦労したことが伺える。
入口には門番がいたりはしない。道具を預かる老婆もいない。4人はホッとした。
魔物よりも人間のほうが面倒くさい。時には。
こちらのピラミッドの通路にはロウソクは灯っていないが、一行には《レミーラ》があった。いっぱしの探索者の気分で胸を張って進む。規模が小さくてもワクワクはするものだ。
通路を真っすぐ進んで角を3つ曲がると、玄室に辿り着いた。
大きな棺が置かれている。
ア「この中に王様の財宝があるのかな?」
財宝など興味もないが、興味があるフリ、をしたのだ。それにしてはセリフが淡泊すぎるが。
アミンが重たいフタに手を掛けようとすると・・・
?「我らの眠りを妨げる者は誰だ・・・
王の財宝を荒らす者は誰だ・・・」
どこからともなく不気味な声が聞こえる!
そして、
バタン!!
玄室の入口が閉じられた!!
ア「閉じ込められたぞ!!」
4人は身構えた!!
なんと、闇の中からミイラおとこの群れがあらわれた!
な「ひー!キモい!!」
ア「闇の中から出てきたってことは、人間じゃないよな?
これ、倒しちゃっていいのか?」
キ「話し合いなんて通じそうにないものね♡」
ミイラおとこは見かけによらぬ剛腕で4人に襲い掛かってきた!並みの商人や盗賊では抗戦できない強い魔物だ!
4人は、狭い玄室という戦場にも苦労しながらも、どうにかミイラおとこの群れをやっつけた。
ゆ「包帯巻いてる人に攻撃するなんて、なんかとても心が痛むわ・・・(汗)」
ゆなは元看護師ゆえの複雑な心境をつぶやいた。
魔物を一掃すると、アミンはもう一度棺のフタを開いてみようとした。
ゆ「ちょっとまたミイラおとこが出てきたりしないでしょうね!?」
な「ひぃぃぃぃキモい!!」
しかし・・・
ア「開かない!これダミーだ!」
なんと棺は、棺のように見えるがフタのない、ただの石造物だった。
ア「何だったんだろう?これ」
な「『王様の財宝を荒らす者は誰だ!』って言ってたよ。
やっぱり王様の祟(たた)りなのかな??」
ゆ「祟りなんて、存在するの?」
キ「祟りって概念は、魔法を使って可能だったりもするんだけど・・・
これは『ファラオの祟り』に見せかけた、魔物のしわざね」
3人「見せかけ!?」
キ「そう。見せかけ。
王の遺体も財宝もないなら、王が祟る必要がないわ。
昔は本当にここに王の棺があったのかもしれないけど、少なくともいつからかダミーにすり替えられた。
ダミーを置いておく目的は・・・
盗掘をおびき寄せるため。そして現れた盗掘を抹殺するため。
そう考えるのが自然でしょうね」
ア「なんで見せかける必要があるんだ?」
キ「ここで事件があって人が戻ってこなくても、砂漠の人たちは『古のファラオに祟られたから仕方ない』って考えるわ。つまり、魔物や黒幕の存在をカムフラージュできる」
ゆ「魔物の存在を隠しながら、人間を滅ぼすことが出来るってことね!」
キ「そう。危険な噂があっても盗掘を仕掛けてくるような、戦闘能力の高い商人や冒険者を抹殺したいんでしょう」
ア「遠くない場所に、悪の親玉がいるから、かな?」
キ「そのような気がするわ・・・!」
冒険は少しずつ少しずつ、緊張感を帯びていく・・・。
キキは仕上げに、このピラミッドに結界を張った。
そうすれば盗掘がこの玄室に訪れても、ミイラおとこたちは出現しない。
そしてこの棺がダミーだと知れ渡れば、やがて誰も盗掘など仕掛けなくなるだろう。
いちおう万事解決、だろう。