エピソード111 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード111
れいは、わざわざ城から訪ねてきた学者がそんなことを言うので、息が詰まる思いがする。
何か凶悪な魔物を倒してほしいという依頼だろうか・・・
マ「はっはっは!冗談が過ぎたな。済まない。
明日、気球の本格的な試験飛行を行うつもりなんだ。
北の山を越えてその先に行こうと思う。
れいさんは旅人だろう?北の地に飛ぶことが、あなたの役に立つのではないかと思って。
ただしまだ気球の整備も操縦も完全ではないから、命の保証はできないよ、という話だ」
れ「楽しそうです!」
マ「そう。楽しいかもしれないよ。
ぐるっと大回りしなくても山の北側まで行ける利便性だけでなく、大空から世界を眺めるのは楽しいかもしれない。
大勢の民が気球で遊覧したがっている。その権利を最初に贈呈するのも、協力してくださったれいさんが妥当ではないかと、私は思った」
れ「とても嬉しいです!
もともと私、世界の様々な景色が見たくて旅立ってきたのです!」
マ「そうか、良かった。あなたの役に立てて良かったよ。
珍しい風景が好きか。
北の山を越えたあたりには、温泉というものが盛んらしい」
れ「おんせん?」
マ「あぁ、地熱によって川の水が温められているのだ。
北の民はそれを浴室に引き込んで、温かい水に浸かる。それが気持ちいいらしい。
それだけじゃないぞ。温泉の水というのはミネラル分を多く含んで、健康や美容に良いという。
温泉地は、それなりに観光的魅力があるだろう」
また面白い話が舞い込んできた!れいはワクワクした。
翌日朝早く、気球は再び上昇の準備を始めた。
女王はまたも乗せてもらうことが叶わず悔しがったが、わがままを言うわけでもなかった。少々お茶目なところのある人なのだろう。そしてそのお茶目さが民に愛されているし、民も影響を受けていて、国民全体が明るくなっている。
また二人の兵士を護衛に、マゴットと、そしてれいが乗り込んだ。
昨日よりもさらに大勢の人が、気球の旅立ちを見送る。この国における気球の発明は、単なるイベントではなく、無限の未来の可能性を秘めているのだろう。
ラナとルナが駆け寄る。
ル「れいが泊まりに来てくれて、嬉しかったわ」
ラ「いつか私たち、気球でれいを探しに行っちゃうかも!」ラナはれいの手を握りしめながら、とても明るい別れの挨拶をした。
戦う勇気と力があるこの国の女たちにとって、それはまったく絵空事ではないのだろう。
気球はゆっくりと浮上していく。れいは自分の体が浮き上がっていることが未だに信じられない!
れ「わ、わ、わ」
マ「大丈夫。落ち着いて。慌てて動き回るほうが危険だからな」マゴットはれいをなだめた。
ガーデンブルグの民は、気球が北の空に豆粒のように小さくなるまで、見送っていた。