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エピソード114 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月22日
  • 読了時間: 3分

エピソード114


れいの泊まった質素な湯治宿は、昼間になると向かい側に屋台が出た。

昼間、昼食の時間を目安にして、小さな屋台がご飯を出しているのだった。

2日目に体がビキビキと痛んで動けなかったれいは、思いがけず目の前に昼食屋さんがあって小躍りした。


屋台を眺めてみる。屋台だけを見ても要領を得なかったが、客が食べている器を見ると、汁ものの麺料理であるようだった。

れ「同じのをください」とれいは注文した。

女「はいよ。お嬢さん旅の人だね?」おかみさんは元気な声で言った。

れ「そうなんです。サントハイムという国から来ました」

とれいが受け答えをしていると、なんとテーブルに座っていた女の子が、屋台の狭いキッチンに立ち始めた。まだ8歳か、せいぜい10歳にしかなっていないように見えるが・・・

れ「え、この子が作るんですか!」

女「そうだよ。ラーメンなんて8歳にでも作れるさ」おかみさんはけろりと笑っている。

娘は真面目な顔で黙々とラーメンとやらを作る。

れ「この町は、学校がないのですか?」

女「学校もあるよ。学校も行くさ。

 でも学校より将来の役に立つ勉強があるだろ?それは仕事だよ。はっはっは!」

たしかに、そうかもしれない。

麵料理はすぐに運ばれてきた。れいは汁をすする。

れ「うん。美味しい!」

女「だろ?8歳だって大さじも小さじも間違えやしないさ。

 この子はこれでもう、ラーメン屋をやって生きていける。あたしゃ一安心だね!」

たしかに!

れいはサランに居た頃、教師になるために一生懸命に勉強したものだった。他の子たちはほとんどが15歳で学生を終えるのだが、れいは教師の資格を得るために、さらにその後も3年間、高等教育に進むつもりだった。それを辞めてこの旅に出てきたわけだが、高等教育に進むために人一倍勉強に励んできたのだ。教師になりたかったからというのもあるが、仕事を得るために懸命な勉強が必要だと、思い込んでいた。

この子は8歳にして、もう大人になった後の生計が確約されている・・・!


れ「ユニークな形での、教育熱心なのですね」れいはおかみさんの目を見て言った。

女「ははは。教育熱心てのも違うがね。

 あたしゃ教育なんてどうでもいいんだ。

 歴史年表なんか知らなくていい。この子を、旅しながら暮らしてける子に育ててやりたいのさ」

れ「旅をしながら!?」

女「そうよ。あんたみたいにね」おかみさんはれいのことを、少々の敬意を含んだ表情で微笑んでいる。

れ「私は、適当に旅をしているだけです」

女「そう。適当に旅できる大人にしてやりたいんだよ。

 あんたは魔物を倒して日銭を稼ぐんだろう。この子にそれは無理さ。

 でも屋台を広げてご飯を売ったって、日銭は稼げる。それで充分だろ?」

れ「充分なんて!充分すぎるほど充分だと思います!」


娘はれいのテーブルに、オレンジの切り身が乗った皿を差し出した。

娘「オマケです」

れ「ありがとう!」れいは娘に向かって大きな声で微笑んだ。

女「誰にでもサービスしてやってるわけじゃないんだよ?

 気に入った客がいたらサービスしてやれって、そう教えたんだ」

娘は、客たちが自分のことを話題にしているとわかった。なんだか少し褒められているのだとわかって、嬉しかったのだ。

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