エピソード121 『天空の城』
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- 2024年7月21日
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エピソード121
れ「旅の者ですが、お話を伺うことは出来ますか?」
神「これはこれは。信心深い方ですね」
れ「城に・・・あ!神様の像がない」
れいは、「城に入れてもらえなかったので教会に来た」という経緯から話そうと思ったのだが、神父に話しかけた瞬間、もう1つこの教会の特異な点に気づいたのだった。メシア像も、聖母像も祀っていない。赤い髪のルビス像もない。
神「ははは。ゆっくりお話を伺いますよ。
そうですね。この国の教会には像がありません。
私たちの国は、偶像崇拝を禁止しています。
教会に像を置くと、どうしても民はその像に・・・その人物にすがってしまうのです。
しかし宗教とは『神様助けて!』とすがるためのものではありません。本来は。
どう生きれば良いのかを、神に教わる道徳の場です。今は神父がその教育を肩代わりしますがね。
系統としては、精霊ルビスを信仰しています」
れ「そういう教会もあるのですね。
水色の国なのに、赤い髪の女神を信仰するとは面白い気がします」
神「赤い髪?あぁ、そうか。
精霊ルビスを赤い髪の女神だと認識する国が多いようですね。
私たちの国の伝承では、精霊ルビスはあくまで精霊です」
れ「せいれい?」
神「えぇ。『精霊』という言葉もまた色々な捉え方があるのでしょうが・・・
私たちにとって精霊ルビスは、人の形をした存在ではなく、霊魂です。
人魂とでもいうのでしょうかね。
民の前に姿を現して啓示をしたこともありました。
しかし、大きな光の姿をしています。男でも女でも、姫でも下賤でもないのです」
れ「なぜ赤い髪の女神として現れないのですか?」
神「なぜでしょうね。
この国の信仰と関連していると思われます。
この国は古くから偶像崇拝を嫌いますから、偶像にされかねない人型の姿を、ルビスは見せなかったのかもしれません。
しかしルビスが光の姿で啓示したがゆえに、この国は偶像崇拝をしなかったのかもしれませんが・・・。どちらが先だったのかは、定かではありません。
古の勇者にも、精霊ルビスの声を聞いた者が居るようです。その場合も、ただ声を聞いただけで女神の姿など見なかった、という伝承があります。
神たちは、姿を見せずに語り掛けることもあるようです」
れ「へぇ!」これは覚えておいたほうが良いのではなかろうか。
神「ところで、こんな話をしに来たのではないのではないですか?」
れ「あ、そうか。
今、お城に向かったのですが入れてはもらえませんでした。王様か神官様とお話がしてみかったのですが。でも、今みたいなお話が聞きたかったのです」
神「母親は、夕飯の買い物をする際に子供の意見は聞きません。
なぜか?
子供の意見を聞き入れると、食卓がクッキーとチョコレートばかりになってしまうからです。
どのような食事が健康的か、親のほうがよくわかっていますから、子供の意見は聞きません」
れ「子供にチョコレートはあげないのですか?」
神「いいえそうではないのです。普段の生活を見ていれば、子供たちがチョコレートを欲しがることはわかります。チョコをまぶしたクッキーが流行りなのだということもわかります。
母親はそれを踏まえたうえで、子供の健康を害さない程度に、お菓子を買い、食卓に少し添えます。
れ「城に無暗に人を入れないが、王が独裁しているわけではない、ということでしょうか?」
神「そうです。民主主義という考え方は大切ですが、やり方を熟慮しなければなりません。
チョコレートをせがむばかりの子たちなら、多数決をとることは危険です」
れ「そうか・・・
チョコレートをせがむばかりの民なら、多数決はとらないほうが良い気がします!」
神「この政治が最も正しいのかは定かではありません。
しかしこの国は、それでおおむね平和に回っている、と言えるでしょう。そして、他の国よりも平和で上品なのだと思われます。
快楽や自由や金儲けを、民に許しすぎるのは良くないのだと、思われます」
れ「この国の美意識は素敵です!どうしてこんなに空色と芸術に溢れているのですか?」
神「サマリントは、『天国と繋がっている国』と言われてきました。
空の上には天国があるのです。
民がそれを忘れないように、この国は家の壁を空色に塗ることにしました。
もし、仮に王がエゴな独裁に陥っても、街中の壁が空色だったら、民は『この国は天国だ』ということを忘れないでしょう。空の上のような穏やかな街を、保ち続けようとするでしょう。そう希望を込めて、空色に塗り続けています」
れいはこの空色の町に、何をするでもなく数日間滞在した。
街を散策しては戦闘訓練に出て、戦闘訓練にくたびれたら街を散策する。同じ様な日々を数日過ごした。
その中でれいは、《イオラ》の魔法を会得した。
《イオラ》は《イオ》系の中級呪文である。《ヒャダルコ》や《ベギラマ》と、ランクとしては同等だが、それらよりも敵に与えるダメージが大きい。