エピソード133
翌日は城へ向かう。勇者の洞窟探索で得た宝石は、ちゃっかり王様に報酬に換えてもらう。しかし洞窟の中で見たものについては、話さないことにした。それを話して「ラダトーム軍を動かしてください!」と要請しても、無駄としか思えないし、余計に事情がこんがらがりそうだ。
王への謁見を終えると、「学者さんはどこですか?」と尋ねて周った。
城の中庭に小屋があり、学者はそこに住んでいた。普通に城に訪れた者は彼に会うことはないだろう。
小屋はそう立派とも言えず、古びてもいた。
れいはそっと戸を叩く。トントン。
れ「学者さん、もしくは賢者さんはいらっしゃいますか?」
老「開いておる」
れいは背筋を伸ばして中に入る。
長い白いヒゲを蓄えた老人が、机で頬杖をついて本を読んでいた。
老「何用かな?
余所者が来るなど何年ぶりじゃったかな。はは」
何年ぶり?やはり勇者の洞窟で石碑を見て、賢者を探す者などいないのか。
れ「勇者の洞窟で、石碑を読みました。
そのことについて伺いたいのですが・・・」
老「ほほお。お掛けなさい」老人はれいに、テーブルに着くように促した。
れ「3人の賢者が、魔の城へ渡るための道具か何かを持っている、と読みました。
お爺さんは、そのうちの一人ではございませんか?」れいは単刀直入に尋ねた。
老「・・・・・・。
いかにも。
わしがその3人のうちの一人じゃ。
ところで、ここに来ることを王には話しなすったか?」
れ「いいえ、すみません。王様には言いませんでした」
老「ほっほっほ。よいよい。
色々と謎を解いたのじゃろう。細かい話は不要じゃな。
わしは3つの神秘なるもののうち、《太陽の石》を受け継いで生きてきた。
ふあーあ、ようやくこれで死ねるぞ!」
老人は部屋のタンスの中をごそごそと漁りはじめた。
れ「そんな、悲しいことをおっしゃらないでください」
老「死が悲しいなどと、決めつけないことじゃな」
れ「え?」
老「世界の真理を知りたいか?
世界中をその足で回るのは良いことじゃ。
しかし目で見るものだけが真理ではない。本を読んだり、悟った者から話を聞くもよい。
肉体の死なんぞ、仕事中の休憩時間にすぎんよ。仕切り直しのためのインターバルじゃ」
れ「輪廻転生、ですか?」
老「まぁ、『死は悲しい』という認識でよい。死なないようにあがき、死なせないように守りながら生きなさい。死を恐れていたほうが、人は懸命に生きるからなぁ。
しかしわしのように隠居に入った者にとっては、肉体の死などどうってないことなのじゃよ。ほっほっほ。
長生きも良いことじゃ。お陰でお嬢さんのような美人を見れたわい」
老人はれいに、《太陽の石》を手渡した。
れ「ありがとうございます。
あのう、もう1つ。他の賢者さんがどこにいるか、情報をお持ちではありませんか?」
老「引越してないのであれば・・・マイラの村の近くの祠(ほこら)で生きてるはずじゃがな」
れ「助かりました」
老「とはいえ、マイラの村で『賢者はどこだ?』と尋ねて周っても、奴の情報は得られんじゃろう。
奴は自分を賢者とは名乗っておらんゆえ。マイラの民は『ぽつんと一軒家に暮らす、変わり者のじいさん』くらいにしか思っとらんじゃろうな」
れ「誰も彼も皆、素性を隠すのですね」
老「素性を隠すから賢者、ともかぎらんぞ?
悪者だって素性を隠す奴は多い。むしろ悪者のほうが多い」
そうだった。ボストロールは大臣に化けるのだ。
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