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エピソード137 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月21日
  • 読了時間: 3分

エピソード137


れ「あ、あのう・・・」れいは恋愛に疎い。こうした状況をどう配慮すればよいかもいまいちよくわからない。しかしそのままずっと放っておくわけにもいかない。

ブ「おぉそうじゃ。おぬしはどなたじゃね?」

れ「手短に話したいと思います」

れいはそう言うと、《太陽の石》を取り出した。

れ「勇者の洞窟の石碑を見て、この石を手に入れました。次の賢者はあなただと、教わってきました」

ブ「なるほど。すべてわかったぞ。

 カーラちゃん、ちょっと待っとってくれな」

ブライはそう言うと、祠の中から一本の杖を取ってきた。


ブ「これをそなたに託そう。《雨雲の杖》じゃ」

ブライはれいに、《雨雲の杖》を渡した。

れ「ありがとうございます。

 もう一人、賢者がいると聞いています。どこにいるのか、消息がわかりますか?」

ブ「南の地に、聖なる祠と呼ばれるものがある。

 近くに町はない。少し手強い旅になるやもしれんのう。気をつけなされ」

れ「わかりました」


ブ「あぁ、カーラちゃん。

 そなたにも渡したいものがある」

ブライは再び家の中に戻ると、《聖水》の小瓶を持ってきた。

ブ「帰り道はもう、戦いなどせんでよいじゃろう?

 これを使えば、魔物は寄ってこんよ。

 男はな、女を守りたい。

 でもな。思いのままに手を差し伸べられないときもある」

あぁそうだった!《聖水》を使えばカーラを危険な目に遭わせる必要はなかった!れいは自分の配慮が行き届かなかったことを悔しんだ。まぁ女にとっては、危険を冒してでも愛する男に逢いに行くことにこそ意味があったのだが。



れいはカーラを連れてマイラの村に戻った。

《聖水》を使っても、少しは魔物が出ることがある。やはりカーラが戦う覚悟を持っていて正解だったのだ。

カーラは用事を済ませると、本当に満たされた顔をしていた。穏やかに、幸せそうである。

人の表情は、ある一瞬でこうも変わるのかと、れいは驚いた。

れいはカーラに感謝を告げ、カーラもれいに感謝を告げる。二人はきつく握手をする。

カーラはいつまでもれいの手を離さずに、言った。

カ「とても強くて勇気あるあなたに、村の女が掛けてあげられる言葉なんてないの。

 でもね、1つだけ言わせて?

 あなたがいつか、愛する人を見つけたら・・・

 そのときに『愛してる!』って伝えないと、絶対に後悔しちゃうんだから。

 それを後になってシクシク泣いたって、どれだけ泣いたって、温泉よりもたくさんの涙を流しても、満たされはしないのよ。

 男の人はね、急にいなくなってしまうのよ。

 ビックリするくらい急に、いなくなってしまうことがあるものなの。

 だからいつも、チャンスは今しかないのよ」

カーラは熱弁の間ずっと、れいの手を両手で握っていた。まるで男の人に告白するみたいに。

「愛してる」を愛する人に伝えそびれたくないように、このことを若い女性に、伝えそびれたくないのだった。


れいはカーラの目を見て思った。

冒険と愛は、どこか少し似ているのかもしれないわ。

愛とは、私が思っていたよりも熱いものなのかもしれないわ。

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