エピソード138
―世界樹―
4人「うわぁー!!」
一行は樹を見上げる。
いいや、ここまで来てしまうともう、樹の全容など見えはしない。そのスケールに圧倒されるのだ。
樹の根元には、なんと集落が存在していた!
ビジネスがどうとか人々が言っていたからまさかとは思ったが、樹の根元で生活を営む者たちがいるのだった。
老「ようこそ、世界樹へ。
ほっほっほ。その様子だと、飛行機に乗ってきたわけではないようだな」
村の入口で、年齢も読めない老人に挨拶を受けた。
ア「おじさんまさか、妖精?」アミンは気づいた。
ドワーフではないが、近種に思える。
老「ほっほっほ、ご名答。
我らはシルヴァヌス。妖精の一種じゃ。
おぬしも妖精じゃろう。ドワーフか」
ア「はは!」アミンは親近感が湧いて嬉しくなった。
自然が大好きなアミンだ。大きな樹の足元に立ち、得も言われぬ幸福感に満たされている。
ななやゆなにしたって、この絶景の渦中にいる幸福感と感動は、アミンと大差ない。
な「なんか良い匂いがするぅ~♪」
キ「あなた木の匂いが好きなの?」
な「そうかも~」
キ「良いセンスしてるわ♪」
集落はとても素朴だった。
数少ない建物はもっぱらログハウスのような木製で、飛行機が云々といったことはこの里や住民には無関係であるように見える。
道具屋らしき店は、なんだか随分古ぼけている。
一行が店の前に立つと、近くの男性が寄ってきて告げた。
男「道具屋はもうやってないよ。ここ何年もね。
《せかいじゅのしずく》も《せかいじゅの葉》ももう採れなくなってしまったからね。
魔法のチカラを帯びた防具や武器も、近年はもう作っていない」
ゆ「どうして!?」
男「世界樹は、癒しのチカラを失ってしまっているんだ。
人間たちはあまりにも、この樹から精気を奪いとりすぎてしまった・・・。
この樹はもうヨボヨボさ」
一行はまた樹を見上げる。
樹はとても大きく、力強く、青々と葉を茂らせている。ように見える。
な「とっても元気なように見えるよ?」
男「表向きにはそうかもしれないがね」
ア「でも・・・
言っちゃ悪いけど、それだけ人間のビジネスに加担してしまったってことじゃないの?」
男「そういう言われ方は悲しいよ。
我らシルヴァヌスは、『人間と共生しなさい』という使命を精霊ルビスから賜った。遠い昔にね。
自分たちの生の役割を、真面目な我らは懸命に生きようとした。
ビジネスというのはよくわからなかったが、欲しいというので協力してやった。
すると次から次へと求めてくる。
『樹が泣いているからもう無理だよ!』と言ったよ!
すると武器を突き付けてきて、『いいから道具を寄こせ!』と脅迫してきた。
喧嘩してはいけないのだと、我らは懸命に耐えた。
いつしか・・・
世界樹から採れる薬草や道具に大した効果が失くなっていると気づくと、人間たちは自然と訪問が減った。薬を寄こせ!武器を寄こせ!という注文も減った。
そして今に至る、だな」
な「なんだか悲しいよ・・・」
男「そうだな。我々は喧嘩を逃れたが、なんだか悲しい。
戦わないことは正しいのだろうか?
そのためにこの樹は犠牲になってしまったが・・・」
戦う、戦わない、その手の話は本当に難しいのだなと、一行は思った。
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