エピソード138
宿屋で休息を挟むと、れいは南の地へと旅立った。
小さな村を拠点にどこかに旅立つというのは、ちょっと心細い。情報が少なく、行き交う人も少ない地をさすらうのは、ちょっと心細い。森の中はちょっと物悲しい。そうしてあんな恋愛の話を聞かされると、なぜ私は女一人でこんなところを歩いているんだろう、という気弱な感情が浮かんできたりもする。
しかし、それに負けてはいけないのだということを、れいは理性でわかっている。今ここで、「寂しい」という感情ゆえに様々を投げだしてしまうのは違う。それは、積み上げてきた冒険がすでに山のように高いものだからこそ、崩したくない理性が勝るのかもしれない。サランの村で何の努力もしない日々だったら、ちょっとした感傷によって昨日作ったクッキーを放り投げ、だだっ子に陥ることに、抵抗を感じないのかもしれない。
人は、自分で自分を支えているのかもしれない。
自分の積み上げてきたものが、自分の背骨となり胸を張らせるのか。
そして、そうだ。私は他でもなくこうした、ちょっとした長期戦に強くなりたいのだった。魔力の枯渇や体力の枯渇に負けず、もの悲しいまっくら森に負けず、どこまでもさすらっていきたい。私は、一瞬の強さよりも永続的なタフさがほしい。
誰とも人に会わないさすらいを2日も続けたのち、強い風の吹きすさぶ高原へと至った。
植物は原生するが緑はとても少ない。緑が少ないと、れいは友達がいなくなってしまったような不安な気持ちになる。しかしそれにも負けてはいられない。
友達はいないが、魔物は出てくる。魔物の襲撃からは逃れることが出来ない。時に涙を流しながら、れいは魔物と戦い続けた。
立札もない旅路だった。しかしれいは、なんとなく直感で、「こっちだ」「こっちに反れよう」とわかるのだった。いや、わかったのかどうかは知らない。なんとなくフィーリングに委ねて歩いてきた。客観的に思えば、それはとても危険な行動だ。
しかしれいは、その物悲しい高原で、聖なる祠を見つけ出したのだった。
れ「やっと見つけた・・・!」
しかし、自分がここに何をしに来たんだったか、もうほとんど忘れかけていた。
祠に入る前に、頬をぴしっと叩いて、自分がここに来た理由を思い出す。人の言語を思い出す。不器用なれいはいつも、大事なことを話す前には、そのセリフを頭の中でリハーサルする。
もしや人など住んでいないのではないか、という感じもしたが、その孤高の祠には人が待ちわびていたのだった。
老人が、静かに静かに待っていた。
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