エピソード139 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード139
絹のように艶やかな白い髪と白いヒゲを伸ばした老人が、後ろ向きで座っている。座禅瞑想を組んでいるのか。あまりにも気配がない。
れいはその何とも言えない荘厳さに、心を奪われるのだった。こんな人間がいるのか。
そして、思わずリハーサルとは違う言葉を口にしてしまった。
れ「こんなところに一人で、寂しくないのですか?」
老人は1つ深い息をすると、静かに目を開き、そしてれいのほうを向いた。
顔は穏やかに微笑んでいる。顔は、精気に満ちている。
老「それが私の、今生の修行科目なのでね。はは」
れ「一人で寂しく、瞑想をすることがですか?」
老「人生の目的というのは、人それぞれ、様々にあるものだよ。
家庭を守るべき人もいる。冒険に出るべき人もいる。様々にあるものだよ。
自分のすべき課題がわかったなら、他者に何を言われようが、屈しないことだ」
私は、母や友人たちとは違う風変わりな人生を生きていて、間違っていないのか。
老「して、どんな御用かな?」
れ「《太陽の石》と《雨雲の杖》を手に入れ、持ってきました」
老「ふむ。非常に簡潔な自己紹介だ。文才があるよ。
それで、《ロトのしるし》はどこかな?」
れ「え!」そんなの聞いたことがないぞ!手に入れるべきアイテムが足りなかったのか?こんなところまで来たのに!?
老「・・・あぁ失敬!《ロトのしるし》はもう求めんでよいんだったなぁ。
今は、勇気ある正義ある者なら誰でもよいんだった。昔は違ったのだよ。誰が主役かは決まっていた。
たしかに《太陽の石》と《雨雲の杖》、見せてもらった。
そなたに《虹のしずく》を授けよう」
老人はれいに、虹色に輝くティアドロップ型の宝石を手渡した。
れ「きれい・・・」
老「魔の島に対峙したら、それを使いなさい。
虹をかけるべき場所がどこなのか、おのずとわかるだろう」
そう言うと老人は、また背中を向けてしまった。が・・・何かを思い出したように振り返る。
老「それで、鍛冶屋のせがれはどうなった?元気にしているのかな?」
れ「は?」
老「あぁ、もうせがれという年でもないのだろうな。
20年が経ってしまったから、中年になっていることだろう。
いや良いのだよ。きっと知らないだろう。
ラダトームの片隅に住む、朴訥な鍛冶屋の男なのだがね。生まれたときに、その優しい目を確かめに行った。昔と同じ目をしていたよ。だから安心したんだがねぇ」
れ「はぁ」
その鍛冶屋のせがれというのが、勇者ロトの血の濃い子孫であり、竜王を倒すべき次代の勇者だったんだろうか。
れいはラダトームの鍛冶屋の1人に世話になったが・・・まさかあの人は、勇者という顔もしていなかったな。まさかな。
しかし、勇者っぽい勇者とはどのような人物なのだろうか?れいはそれも知らないのだった。
賢者っぽい賢者がどのような人かも、れいは知らなかった。この土地で出会った3人の賢者は、いずれもれいの想像していた賢者の通りだったとは言えない。賢者というよりは、まるで秋のすすきのようである。
つまり賢者とは、秋のすすきのような人なのか・・・?