エピソード140
勇者の洞窟の啓示に従い、3つの神秘なるものを集めた。《虹のしずく》を手に入れると、もう魔の城へ向かえと言う。つまり、もう竜王とやらとの決戦が近いということになる。
「え、もう?大丈夫なのか!?」れいは自分に焦る。ラダトームで武器と防具を新調して一回り強くなったが、やはり気が気ではない。
・・・ラダトームで入手した、2万ゴールドもする《奇跡のつるぎ》はとても強かったが、同時に気づいたことがあった。
剣の切れ味というのは、そんなに大差ないのだ。300ゴールドの《青銅の剣》と2万ゴールドの《奇跡のつるぎ》とで、66倍も切れ味が違うわけではない。
高価な剣を入手すればすごく強くなるのだろう、と夢見ていたが、ある種の限界があることに気づいてしまった。ここからは、剣の切れ味ではなくて、剣士自身の身のこなしがものを言うのだ。より強いチカラで剣を振らなければ強いダメージは与えられないし、俊敏さや言葉にならないテクニックが要る。または、もっと違う何かによって圧力を増やさなければならないのだ。
そんなことに気づいたとき、れいは《バイキルト》の魔法を覚えた。
《バイキルト》は、打撃攻撃の威力を2倍にも高める魔法だ。戦士や武闘家に掛けてやることで、局面を大きく変える。
そういえば、大勢の冒険者たちとサザンビークの大臣に化けたボストロールを退治したとき、この《バイキルト》を唱える魔法使いが居たのを思い出した。
れいは、自分の実力が今、あの時の冒険者たちと同じくらいなのだろうな、と感じる。厳密なところはわからないが、大体そんな感じなのだろう。
長い道程を経てマイラに戻ると、魔の城への情報を探す。
南からぐるっとラダトーム方面に行けば、それがあるという。れいは休息と道具や食料の買い出しを済ませると、彼(か)の地へ向けて出発した。
やがて、鋭くそびえる山が見えてきた。これだろう。
聖なる祠のあった土地のように、色のない物悲しい山であった。そして魔物は益々強い。山を登っていくと、やがてすさまじい霧に視界は遮られ、山頂に向けて雨が降るのだった。しばらく待ったが止む気配がない。
なるほど、ここで《虹のしずく》を使うのか。
「使う」とはどういうことだろう?
よくわからないが、れいはそれを空高く掲げると、「お願い!私の道を切り拓いて!」と強く心に念じた。
すると、次第に雨は止み、霧は晴れていくのだった。
視界は得た。道は悪いがまだ進める。
魔物と、孤独と、不安と戦いながら歩を進めていくと、頂上に薄気味悪い城を見つけるのだった。
あぁ。山の上の城なんて良い印象はない。
城は、宮殿ではなく城だった。中に入ればガストンの館と印象がかぶることはなかったが、広くて人のいない城はダンジョンのように感じられる。クモの巣が生え、あちこち朽ち果て、暗く、薄気味悪く、魔物がうごめく。そしてあちこちに宝箱が見える。なぜ魔の城に冒険者が喜ぶ宝箱が置いてあるのか?よくわからない。
宝箱を見かけるとどうしてもそっちに行ってしまう。開けてみると、《鉄仮面》だとか《魔導士の杖》だとか、中途半端な宝物が入っている。収穫を得た気持ちにもなるが、冷静になってみると、これは「遠回りをさせられているのでは」とれいは思った。そのぶん、目的地へ到達する前に体力や魔力を消耗させられるのだ。または味方が何人も居る場合、仲間割れなど起きたりもするのだろう。
そして王の間を見つけると・・・
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