エピソード153 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード153
さて、どうしよう。東の大陸までは3万ゴールドと言っていた。地道に魔物を倒して稼げないこともない。今日明日を焦っているわけでもないし。
しかし、あの女店員は「貨物船」だとかいう言葉を発していたぞ?貨物を運ぶ船のことなのだろう。人間を運ぶための船と、宅配便や輸入品、建材などを運ぶための船と、2種類があるということなのだろう。
貨物船のほうに乗せてもらえないものか、当たってみる価値はありそうだ。
しかし先ほどの客船の隣にそれらしき船はないし、この大きな建物の並びに貨物船の店らしきものもない。
れいは頭が混乱してきたので、一旦仕切り直すことにした。
大きな街で困惑したらどうすればいいんだっけ?自分に尋ねる。そう、少し喧噪から離れるべきだわ。れいは港の前の喧噪から適当に少し歩いた。人波が落ち着いたあたりに、宿を探す。人々の表情は明らかに、一回り穏やかになっている。
宿の主人に、「貨物船で安く東の大陸に行くことは出来ないか?」と相談してみた。
宿「そんなこと出来るのか?わからんが、知り合いに貨物船の乗組員がいるよ。そいつに話を聞いてみたらいい」
近くの食堂を案内された。ちょうど腹ごしらえをしたいところだ。
食堂には店主がいた。食堂の店主で船の乗組員?そんなことがあるのか?と思ったが、息子が貨物船で働いているという。
知り合いの、知り合いの、知り合いの、知り合いを辿って旅を創っていくのだ。こういうのはたらい回しとは言わない。
店「貨物船に乗りたいだって?貨物船は客は乗せないんだよ。汚ったない船なのさ」
れ「そうなのですか。とにかく、3万ゴールドも持っていないのでもっと安く行きたいのです」
店「そうだなぁ。作業員として乗り込んだら、可能かもしれないが・・・」
れ「私、働きます!」
店「働けるのか?姉ちゃんが?」
れ「私、炭坑のお手伝いをしたり家づくりのお手伝いをしたり、魔物も倒せるんです!」
店「おやそうかい。息子に話を通してみような。
今日の夜、もう1度店に来てくれるか?夕方じゃ早すぎるんだ。20時だな」
れ「わかりました!」
一歩前進したようだぞ!
礼儀正しい顔をした正規のスタッフに尋ねるよりも、裏道を画策したほうが上手くいくときもある。
夜まで時間を潰し、再び食堂へ向かう。
夕飯もついでに食べようと思っていたのだが、食堂は20時で閉まったという。しかしれいの事情を聞くと、「じゃぁ特別にオムライスくらいは出してやる」と店主は言ってくれるのだった。優しい。
ボロボロの作業着に、汗をびっしょりかいた息子が帰ってきた。店主が話を通してくれる。
息「あんたが?貨物船に乗るのか?
レディは客船に乗るんだよ」
れ「でも3万ゴールドも払えないので、他の手段を探しているのです」
息「そうか。まぁ話はわかるが・・・
汚い船だぜ?耐えられるのか?」
れ「耐えられる・・・と思います。
お仕事を手伝えば乗れるかもってお父さんが言っていました」
息「オレの作業着、着れるか?
母ちゃん、ちょっと1着だけ2度洗いしといてやってくれよ」
母ちゃんまで巻き込んでいる。
息「サマンオサ行きの貨物船だろ?明後日の夜に発つな。
夕飯食べたらすぐ、作業着着て顔隠して、しれっと船に乗り込めよ。どうにかなるだろう。船が出発しちまえば追い返すことも出来ないからなぁ」
母「無賃乗車だっつって捕まったりしないかい?」
息「だから『働きます!』って大声で言うんだよ。100ぺんも言うんだ。ズルしたかったわけじゃないって言えば、捕まるまではいかないんじゃないかな」
れ「ありがとうございます!」
息子は貨物船の船着き場の地図を書いてやった。豪華客船の港からは少し離れている。やはりエリアが違うのだ。
れいはこの食堂の親子を見て、何かを思い出した。
そうだ。エンゴウの民にどことなく似ている。ガラは良くないし、大酒呑みだし、足は臭い。しかし庶民のために日々を懸命に働いている。
貨物船は豪華客船よりも走行性能が低く、サマンオサまで10日も掛かるという。暇な時間がたくさん出来そうだ。
れいはそれを見越して、街の中で本屋を探した。そして、暇つぶしになりそうな本を求めた。『吟遊詩人シュナの旅行記』というのを選んだ。自分の旅に重なりそうだ。
その日と翌日は、ぶらぶらとサンマリーノの市街地を歩いて周った。