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エピソード158 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月22日
  • 読了時間: 4分

更新日:2024年7月24日

エピソード158


大都市に長居していたいとは思わない。

街から出て魔物と戦ってみる。生息する魔物はまたガラリと変わっていて戸惑う。しばらく魔物のリサーチと戦闘経験、準備運動を重ねたら、もう次の地を目指すことにした。

そういえば、トロデーンの行商人が言っていたことは正しかった。漁師町トロデーンの後、サンマリーノ、サマンオサと2つの海辺の町に訪れたが、どちらもトロデーンほど磯臭くはないのだった。海辺の町のすべてが苦手なわけじゃないようだ、とれいは希望を持った。


なんでも、『海の中には非常に明るく鮮やかな色合いを持つ場所もある』と、サマンオサで耳にした。それはきっと絶景の1つだ!内陸に行ってしまえばもう海の絶景には出会えそうもない。海岸沿いにいるうちに、美しい海を探してみようとれいは考えた。

「美しい海はどこにあるか?」と尋ねると、ずっと南へ、都会じゃなくなるまで行けばあるという話を聞いた。なんでも海というのは、人間が船を走らせたり生活用水を流したりすることで、紺色に濁ってしまうのだそうだ。



南下する道には馬車の姿もちらほらあったが、れいは歩いて進んだ。このエリアの魔物と戦いながら戦闘能力を上げたり、魔物の性質を理解したりする必要性があるからだ。

やがて、アズランという大きめな街を見つけたが、ここは食料補給と一夜の休息のみに留めようと思った。今は「美しい海を見たい」という目的がある。


しかしここでちょっと驚いたことがある。どうも、東の大陸は宿代や食事代が高いのだ。

サマンオサの宿代が高いのは、港街という立地上仕方ないのかな、とここ2週間で学習している。しかし南の街もまた、ちょっと裏通りに入っても宿代が60ゴールドもする。それは西大陸の高めの宿屋の1.5倍くらいの相場だ。

食事も同様で、庶民的な食堂で軽く食べただけで15ゴールドくらいかかる。西大陸なら5~10ゴールドで済む。


宿にいた冒険者にその驚きを打ち明けてみると、事情を説明してくれた。

冒「そうだね。東の大陸は西よりも物価が高いぜ。みんなお金持ちなんだ。

 なぜかっていうと、魔物の強さが違う。西大陸より強いだろ?だから魔物が落とす宝石も大きくて、高い金額になる。あとは海賊行為でカネ持ってるヤツとかも多いからなぁ。

 西から来ると物価が高くて面食らうってハナシは、よく聞くよ。

 それにしても、物価以前にお姉ちゃん、一人で大丈夫なのかい?」

れ「え、何がですか?」

冒「魔物が強いだろうよ。 

 それに海賊が絡んでくることとかあるし、山賊だっているんだよ。何かと物騒な土地だぜ」

れ「そうなんですか・・・。

 とりあえず魔物に関しては、なんとかなっています」

冒「すげえな。良い武器持ってるしなぁ。

 良いトコの生まれなのか?」

れ「いいえ、田舎の村で生まれて、ほとんど一文無しで出てきました。

 最初に買ったのは《銅の剣》です。そこから少しずつ、装備を整えてきました」

冒「マジか!叩き上げかよ!こりゃ本格的に尊敬するぜ!

 カネ持ちなら英才教育受けられるし良い武器与えられるし、強いの当然だからなぁ。叩き上げでそんだけ強いってのはめちゃくちゃ価値あるよ!」

れ「ど、どうも」れいは頬を赤くした。

強そうな冒険者に「強い」「尊敬する」と言われて、やはり照れてしまうのだった。まさかそんなことを言われる日が来るとは・・・。



褒められて気分が上がり、胸を張りながら戦い進んでいくと、やがて海沿いの小さな村に辿り着いた。

プカシェルという名前の村だ。

村への到着は夕方で、海の色は夕陽に染められよくわからない。絶景はまだもうちょっと先かな、とれいはクールに諦めていた。波の音の聞こえる素朴な宿に、ベッドを取る。


しかし、翌朝カモメの鳴き声に目を覚ますと、れいはとてつもなく興奮するのだった。

客室の大きな窓から見える海が、とてつもなく綺麗な水色をしているからだ!現代日本の言葉で言えば、「鮮やかなターコイズ色」と言える。そんな色名を知らないれいにとって、それは「とてつもなく鮮やかな水色」だった。

エピソード158 『天空の城』

どのみち、これはすごい!紺色の海と同じものとは思えない!

このような鮮やかな水色を、れいは世界のどこにも見たことがなかった。人の創ったものや芸術の中にさえも。


れ「ファンタジーだわ・・・!」


これもまた、れいが想像する非現実的な世界・・・「ファンタジー」の1つだと感じ、偉く感動した。

れいは部屋着のまま飛び出した。そして海へと飛び込んでいく。誰もいない、波音のまだ穏やかな海に飛び込み、ただただそのターコイズ色に包まれて官能していた。官能、という表現が合いそうだ。何の遊びもしていない。ただプカプカと浮いていただけだ。

なんだかその水は美味しそうに見えるが、飲んでみると普通にしょっぱいのだった。

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