エピソード15 『天空の城』
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- 2024年7月21日
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エピソード15
馬車に乗っていても、時おり魔物は襲ってくるのだった。
すると商人は、《メラ》だか《ヒャド》だかを放ってさらっと撃退するのだった。
れ「戦闘が出来るのですね!」れいは荷台から目だけを見せながら、行商人に話しかけた。
男「ははは。商人ってのは、行商をするなら戦闘も出来なきゃ務まらんさ。
ワシはてんで弱い商人だがね。世の中には戦士に負けず劣らずな猛者もいるよ。
勇者様の旅にお供した商人だっているって話だぜ。
れ「命がけで旅をして、《薬草》を8ゴールドで売って、それで儲けになるのですか?」
男「《薬草》より利幅の大きなアイテムもたくさんあるさ。
とも言えるが。
ある種の大人ってのは、儲けの効率の良し悪しなんてどうでも良かったりするんだ」
れ「えぇ?」
男「旅が好きなヤツは、儲けが少なかろうと効率が悪かろうと、旅に関連した仕事をするんだよ。行商人みたいな、ね」
れ「商人は旅が好きなのですね」
男「または、武器やなんかを愛でてるのが好きなのさ。日がな《銅の剣》をキュッキュと磨いてたいんだよ。それが幸せなんだな」
れ「なんだか格好いいですね!」れいは、「大人になるとはどういうことか」を近年よく思案するものだった。
男「いや待て!色んな大人がいるぞ。
儲けにしか興味のない商人だっている。
いや、商人なんて基本は卑しいヤツだから、カッコイイとか尊敬するとか、そんなイメージを持つのもナンだな。はははは」
れ「そうですか」そのような気がする。物語を読んでいる限りでは。
男「それに、商人に限らんよ。
儲けが少なかろうが、それと戯れてるのが好きだから仕事にする。そんな大人は多いもんさ」
たとえば宿屋のおかみは、人と戯れるのが好きだったりするのだろう。
今度は行商人のほうがれいに話しかけた。
男「お嬢さん、一人旅は寂しくないのかね?」
れ「少し寂しいです」
男「いいや、寂しくないよ」
れ「えぇ?」
男「すれ違う人間からすれば、一人の旅人のほうが話しかけやすいもんさ。つまり、一人旅をしているほうが、見知らぬ人々と話に花が咲きやすい。毎日新しい友達と語り合うようなもんだろ。寂しくなんかないよ」
そうか。「一人は寂しい」なんて固定観念にすぎないのだな。
小さな馬車は、やがて大きな街へと辿り着いた。
王都サントハイムだ。
城下町ではあるが城壁で囲まれているわけではなく、旅行者の出入りはわりと自由であるようだった。
商人は馬車を街の中ほどまで進め、あたりに宿屋でも何でもある辺りまで達すると、れいを下ろした。
男「じゃぁな。達者でやれよ」
れ「ありがとうございました」
れいは王都サントハイムに昔来たことがあるが、ほとんど記憶にない。なにしろ5歳のお宮参り以来である。
街のどこに何があるのかよくわからないが、字が読める15歳のれいなら、看板や立札を見ることで察しは付く。
王様のところに通行手形を貰いに行かなくてはならないのだが、直行するのは味気ない。少し城下町を散策したいと思った。
サランやテンペとは比べものにならないほど人の往来があり、家や店や建物も多い。人々は速足で、無愛想であるように見える。陽気な者もいるが、それはそれで陽気すぎるように見える。
「話が通じるんだろうか?」れいは少し不安になったが、親にも誰にも甘えるわけにはいかないのだ。