エピソード163 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード163
れいは洞窟を見つけた。
なるほど。遠巻きにはわからない。近くまで寄れば、地面がえぐれるように穴が開き、そこから横穴が伸びていく鍾乳洞がお目見えするのだった。
入口が地上よりも数メートル低いので、入ったそばからもう涼しい。鍾乳洞というものの得体を知らない者は、そこでもやはり恐怖を感じて引き返したくなるだろう。
さらにはやたらと狂暴なドラキーの変種が、ホテルのドアボーイよろしくキーキーと挨拶をしてくるのだった。
鍾乳洞というのは、冒険者じみた者たちが何かを隠すのにとても都合が良いようだ。
訂正。冒険者にとってもそんなに甘くはない。
れいは物おじすることなく鍾乳洞を潜ってみたが、ほら穴のあちこちには屍が転がっている。そばには剣や鎧が転がっていたりもする。つまりここは、いっぱしの冒険者にとっても危険な場所なのだ。
れいも屍を見て青ざめた。もし《はやぶさの剣》の在り処でなかったなら、もう引き返していただろう。出来ないかもしれないが、無理したいと思ったのだ。デイジーのために。
鍾乳洞はお決まりのごとく、自然のチカラで幾つもの分かれ道をこしらえている。どちらに行けばいいのか、当然ながらわからない。そして、行き止まりだから戻ってきても、そこで魔物に遭遇して戦っていると、「あれ?どっちに行くつもりだったんだっけ?」とわからなくなってしまう。だから同じ袋小路に何度も侵入してしまったりする。
もはや、自分がどの方角に向いて進んでいるかもわからなくなってくる。だから、先に進んでいるつもりが後戻りしてしまうこともある。洞窟には通りの名の書かれた看板もなく、通りを見分ける壁の装飾もない。自然が億年を掛けて造る彫刻のような装飾に満ちてはいるが、場所や方向を示す記号にはなってくれない。
想像するに、仲間が居ると仲間割れが起きるだろう。「そっちの道はさっき行ったぞ!」「いいや行ってない!」と。
「きっとこっちの道だ!」「いいやこっちだ!」と。
鍾乳洞というのは、もはやそれ自体が意地悪な魔物のようだ!!
そしてさらに、この鍾乳洞にはところどころ、宝箱が置かれているのだった。れいは最初「もうお宝を見つけた!」と思って小躍りしてしまった。しかし駆け寄って開けてみると、20ゴールドが入っているだけである。まさか海賊さんは、わざわざ20ゴールドだけを隠すために地図に印を残したり伝承を残したりもしないはずだ。
歩き回っていると、小さなサイズの宝箱があちこちにあるのだ。袋小路には特によくある。ついつい興奮してしまうが、大したものは入っていない。
要するにこれらの宝箱は、財宝を隠した者によるトラップなのだろう。
しかしれいは、「そうともかぎらない」と思った。
たとえば、たとえばだ。洞窟の一番奥に、大きな宝箱が鎮座したくさんの金貨が山積みになっているとする。探検者はそれが「この洞窟の財宝だ!」と思うだろう。でも、本当に賢い仕掛け人ならどうする?最も盗られたくない宝物は、別の場所に置く可能性がある。
おそらく私に限らず、冒険者たちはそのように先読みする。すると、宝箱があるたびに、それを開けずにはいられなくなるのだ。すべての宝箱を開けてみないと、どれがお宝でどれがガラクタか、どれがB級のお宝でどれがS級のお宝か、判別はできないのだ。
そうして仕掛け人の思惑通りに宝箱を漁っているうちに、体力が尽き果て魔物に殺されるか、迷いに迷って飢え死にするのだろう。
人は、己の欲望に殺される。