エピソード170
やがて、大きな荒れ果てた町を見つける。城跡の女の言うことは間違いではなかった。
戦争で壊された雰囲気がある。誰もいない。生き物の気配があっても鳥が何かをついばんでいるだけだ。
領土を奪うでもなく、ただ民だけが殺された町。じゃぁ何のために滅ぼしたのか。歯向かうからか。
人の生き様には様々な選択肢がある、とれいは思った。
西メボンに住んでいるからといって、皆が皆、政治指導者と同じ考えを持つのだろうか?皆が皆、政治指導者に服従しなければならないのだろうか?
「自分は違う」と自覚し、しかし誰とも衝突せず、あの家族のように穴ぐらで新しい生活を始める選択肢もある。
とはいえ彼女たちが幸せなのかはよくわからない。
しかし、幸せそうだから穴ぐらを目指すのか?そうとも限らない。
誰の選択が正しいのかは、いつまで経っても謎だ。
町を東に進むにつれて、戦争による損壊は小さくなっていく。
どこにも境界線も壁もなかったが、いつの間にか「東メボン」に入ってきているのか。
壊れていない家も店もあるが、しかしやはり人の姿はないのだった。
ただ一人静かに、れいは寂しい町を突っ切って歩く。
これもまた絶景である。絶景という言い方はよくないのだろうが、世界の果てまで旅に出ないとお目に掛かれない光景ではある。その中を歩くときにしか、感じられない機微がある。
その機微に何の価値があるのか?何の価値もないのかもしれないが。
たとえば秋の風は、決して無価値ではないはずだ。
しかしれいは、東に進めば進むほど妙な違和感を感じていた。
畑の緑に生命の息吹がある。誰かが畑に、手を入れているような気がする。
城跡にいた家族のように、この残された町の家を勝手に利用して人が住んでいたって、おかしくはない。しかしどうも、そういう姿は無いのだった。
隣国が攻撃してくる可能性が、まだ残されているから、か。
やがて家もまばらになった後、あの女性が言っていた「石造りの遺跡」が姿を現した。
立派なものである。
広大な台形の台座の上に、茶色い石で造られた、祠のようなものが幾つも並んでいる。
台座の上に上るための階段も、ちゃんと立派にしつらえられてある。
そして台座の四隅には、象の像が外側を向いてのっしりと立っていた。まるでこの祠を守るかのように。象は意外と可愛い顔をしている。ふふふ、とれいは微笑んだ。造った者たちの穏やかな気質が想像された。
れ「儀式でも行わていたのかしら」れいは一人でつぶやいた。
平たい台座の上にはたくさんの小さな祠が並んでいる。全部で40か50か、もっとあるかもしれない。
祠というのか?よくわからない。それは四角柱で、すべての面に扉が彫られている。
まさか?
れいはその扉の彫刻を押してみる。動かない。
もっと強い力で押してみる。動かない。
他の面の扉も押してみるが、やはりピクリとも動かない。
れ「だまし絵だわ」ダミーの扉だ。
石造りの、同じ様な祠が40か50もあるのだ。つまり、ダミーの扉は200かそれ以上もある。
れいは隣の祠に移り、やはり扉をむんと押してみる。やはり、動きはしない。
れ「だまされたわ」れいはつぶやいた。
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