エピソード175 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード175
れいはリッカとの話の通り、虹色の鳥の住む町を目指した。そうでない町に行きつけば、「虹色の鳥の町はどこか」と尋ねてすぐに旅立った。しかしこの土地の者が言うに、虹色というか極彩色の鳥は、この大陸に幾らでもいるらしい。それを飼うことが文化になっている町が1つ2つある、というわけだ。そう珍しい生き物ではないのである。その町が珍しいのである。
4日の放浪の末に辿り着いたのは、クスコという街だった。
古くからある街である。建物の雰囲気は西大陸のロマリアやマーディラスの辺りに似ているが、城壁も教会も年季が入っている。
聖母崇拝の教会信仰に篤い街らしく、巡礼の旅行者が多く訪れるようだ。また、近くには霊山と畏怖される大きな山がある。その登山口として経由する旅行者もいる。つまり観光で栄えている街でもある。
街の中心には石畳が敷かれ、独特の雰囲気を持っている。そのあたりは旧市街と呼ばれ、なおさら古めかしい街並みを保っているのだった。
れいは頻繁に空を見上げたが、極彩色の鳥にはまだお目にかかれない。
れいはその旧市街の中に、宿をとった。古くから営む店である。
いつものように、店先で値段を聞いては内装を見せてもらって検討する。その際、建物の中に大きな温室が設けられているのを見て、れいは気に入ったのだった。少し値段は高いが、この雰囲気は捨てがたい。
部屋に荷物を置いて、受付階のロビーに出てくる。温室を覗くと、ギュウギュウ詰めに様々な植物が植えられていた。熱帯の植物、というのだろうか、れいがあまり見たことのない種も多かった。花も咲いており、とても鮮やかな原色が多い。まさか極彩色の鳥というのはこれら熱帯の花の比喩なのでは?と思った。
そのとき、妙な歌声がれいの耳に聞えてきた。
噂の鳥か!?と思って振り返ると、ロビーのソファに小さな女の子が寝そべって、ハミングをしているのだった。
なんだぁ、人の女の子か、と思った瞬間!
その子の肩に、カラスほどの大きさの鳥がバサっと飛んできて停まった!噂の虹色の鳥が、この少女にとても懐いている!?
れ「まぁ!」れいは、少女と鳥にそっと近寄った。
すると鳥は警戒心を抱いて逃げてしまった。逃げたと言っても、この宿のリビングの中で飼われ、飛び交っているのである。飼われているのだ。そのための温室なのだろうか。
少女は宿に客人が来ても気にせず、ソファに寝そべり、歌を歌うのだった。
母親である店主が「こら!静かになさい」と咎める。
れ「ふふふ。私はかまわないわよ」と少女の横に座った。
少女は上機嫌に、ニコっと微笑んでハミングをし続けた。
そして客人の許しを得たと理解したのか、どこか向こうの上のほうでも奇妙な歌声がしはじめた。さっきの極彩色の鳥が鳴いているのだ。キューとかケーとか言っている。
少「わたしね、歌が好きなの」
れ「ふうん。良いことね」
少「いつかは鳥さんになりたいんだけど」
れ「そう!」
少「昔は鳥さんだったと思うの」
れ「そう」
少「どうやったら、飛べるの?」
れ「わからないわ。それがわかったら、私にも教えてくれる?」
少「うん。うふふふ」少女は機嫌よく微笑んだ。
少「わたしはマヤ。お姉ちゃんは?」
れ「私はれい。ずーっと西の、海よりも西から来たのよ」
マ「うそぉ?じゃぁお空を飛んだの?」
れ「違うわ。船で渡ったの」
マ「ふうん。西ってどこ?」
れ「うーんと。お日様が沈む方角よ」
マ「じゃぁお日様を追いかけたら、お姉ちゃんに会いに行けるんだぁ」
マヤという少女は、れいに懐くとソファの上をゴロゴロと転がり、やがて眠ってしまった。
れいはしばらくマヤのそばに居ようと思った。紙を持ってきて、極彩色の鳥を絵に描いた。そう。れいの旅の日課は1つ増えた。行く先々で、見たものを絵に描く。そう凝ったものではない。マローニほど上手くないし、マローニほど絵に長時間を割こうとは思わない。
店主はその日の我が家の夕食を、れいにももてなした。菜食主義だと言って、肉も魚も食べないのだった。
この街には、菜食主義の人が多いらしい。
この虹色の鳥は、ロイドと呼ばれている。そしてマヤの飼っている鳥はチルという名前だそうだ。
チルは気を利かせて、ときにはれいの腕に留まったり頭をつついたりしてきた。じゃれているつもり・・・だと思われる。
リッカ!見るだけでなく遊ぶことも出来たよ!