エピソード176
翌日は街をぶらぶらと歩く。虹色の鳥を見るという目的は宿の中で達成できてしまったので、あてもなくぶらぶらと歩く。
中央広場からは大きな教会が見え、その反対側の空には大きな山がそびえる。あれが霊山か。ピサック山というらしい。空を見上げると、雲が近く見える。なぜだろうと思っていると、山の麓のこの街も、すでに標高が高いとのことだった。いつの間にか緩やかに高度を上げてきたのだ。
石畳の地面にもだんだん躓かなくなってきた。
街を歩き、あちこちの店を覗くと、ロイド・・・例の極彩色の鳥を飼っている店が方々にあった。とはいえもっぱら鳥かごの中に閉じ込めているだけだ。大きな温室をしつらえて、熱帯雨林のような環境を再現しているのは、マヤの宿屋が珍しい事例だった。
久しぶりに教会に赴いてみる。
教会の中はやはり芸術に満ちて美しいが、その芸術品もやや古めかしく思える。芸術にも時代における流行があるのだろうか。
神父に冒険の過程を報告してみると・・・
神「ほほう。珍しいですね。
鳥を目当てにこの街に来る、という人は少ないです。
この街は昔から、聖母信仰の巡礼者が次々と寄っていくところでした。しかし近年は別の種類の訪問者が増えています。それが霊山です。教会の正面にそびえる大きな山はピサック山ですが、これを霊山だと崇める人々が増えました。
山や自然を敬うのは良いことだと思いますがね。ピサック山が特別な山とか、霊的な山とか、そういう考えは危ういと思います。それぞれ、自分の地元の山を愛したほうが良いのではないでしょうか・・・。
ましてやこの山は火山。火山に観光地として人が集まるのは、よろしくない。人を集めるのも、よろしくない。誰か観光業者が、儲けるために『霊山』だのと言い始めたのでしょうが・・・」
「霊」という言葉は危ういものだな。
夕飯を食べれば宿に戻る。宿のリビングに虹色の鳥がいる風景は面白いが、ちょっと心配の種もある。
この宿は、コロニアル調というのか、リビングを囲むように寝室が配置されているのだ。すると、リビングの温室で鳥がケーと鳴いていると、夜眠れないのではないか?
しかし、そんな心配を察するかのように、ロイドは黙って夜を過ごすのだった。時々バサバサと羽音は聞こえるが。
翌朝目を覚ます。
リビングのテーブルに朝食が用意され、れいはそれを食べる。
じきにマヤが起きてきて、まだれいが居ることを喜んでいた。そしてまた歌い始めるのだった。
するとチルは、待ってましたとばかりにまたケーと鳴きはじめるのである。子供のはしゃぎ声で、朝が来たと感知するのか?いいやリビングの天井は日が差しこむ造りで、すでに朝であることは鳥もわかっているはずだ。面白いなぁ、とれいは思っていた。
れいはこの日、周辺で戦闘訓練を重ねることにした。また魔物は一段と強いのだ。それらを苦なく倒せるようになっておかなければならない。
そしてれいが遠出をすると、クスコの街に事件は起きた!
なんと、街のあちこちで飼われているロイドたちが、居なくなっているのだ!盗難に遭ったと思われる!
巡礼客、観光客を見越した食堂や土産屋などがあちこちにあり、その多くが軒先に鳥かごを吊るしてこの鳥を飼っていた。店としては看板ペットにもなるし、この街独自の景観を作っているのだが・・・山賊からしてみればとても窃盗しやすい状況にあるのだ!
極彩色の鳥は、世界的に見れば珍しいものである。熱帯雨林にまで赴けばたくさん捕獲できはするが、そんなのは誰にとっても面倒だ。するとこの街のペットが、卑しい者たちに狙われたのだった。
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