エピソード182 『天空の城』
- ・
- 2024年7月22日
- 読了時間: 3分
更新日:8月7日
エピソード182

サ「多分ね、そこが重要なのよ。
超一流になるかどうかの違い。あなたみたいに、やさぐれない子が超一流になるのよ。そして超一流にしか出来ない仕事がある」
れ「私、超一流じゃないわ」
サ「超一流じゃないのかもしれないけど、超一流みたいな凄さがあるわ」
れ「・・・・・・」
サ「でも私、自分を卑下はしないの。やさぐれたまま生きたりもしない。
とりあえずセンスで辿り着けるレベルの中で人生を楽しむし、少しは誠実な人の役に立って充実を感じたいのよ。少し良い子なの私」
れ「ふふふ」言い得て妙だ。
サ「あぁ、お腹が空いたから、やっぱり何か食べに行きましょう?」
れ「そうね」
サーヤの奇妙な性格は、こんな調合によって醸造されたらしい。
サ「美しいわよね、この町は」
サーヤは家壁を這うブーゲンビリアの花に鼻を近づけながら言う。
芸術や植物の美しさに、れいと同じ様に恍惚を感じているようである。
サ「美しいところに居たいのよ、色んな意味で。
私の旅は、もう充分」
サーヤはれいを、洒落た食堂へと連れていった。
愛情のこもったガーデンブルグの料理で腹ごしらえをする。
今度はれいから問いかける。
れ「そういえばサーヤ、仲間がいたはずよ?」
サ「そうよ。さよならしてきちゃった」
れ「ケンカしちゃったの?」
サ「ケンカってこともないけどね。行きたい方向が違う、とわかったから、かな。
これもちょっと話長くなるけど、いい?」
れ「えぇ」普通の冒険者たちがどのように旅するのか、れいも興味がある。
サ「魔法学校を卒業したばかりの頃、冒険者たちから誘いを受けたわ。
魔王を倒すために旅をするって言ってて、私に出来るかはわからないけど、興味は持ったの。
仲間たちもそこまで強いわけではなくて、一緒に強くなればいいって言ってくれたから、気負わずに済んだわ」
れ「うん」
サ「冒険や人助けをしながら旅をするのは、それなりに面白かった。これをずっと続けるのも、悪くはない。
でも私の仲間たちは、魔王を倒すって言ってるわりには寄り道が多いのよね。カジノに何日も入り浸ったりもするし。
だから、何か腑に落ちないなぁとは思ってたの。
ある時、このガーデンブルグって女だけの城の話を聞いてね。結構強いけど戦士ばかりだって話も聞いたわ。
それで私、仲間たちにさよならを告げたの。後は別行動するわって」
れ「引き留められなかったの?」
サ「引き留められたけど、それを聞くようなタマじゃないでしょう?
それに、別にこんな私の性格を好いていたわけでもないでしょうしね。そう惜しくはないのよ。
親友と感じていなかったのは、お互い様」
れ「うん」情やよしみを引きずるよりも、もっと愛し合える仲間を探すべきというのは、今のれいにならなんとなくわかる。
サ「ガーデンブルグに来てみたら、国は美しくて理想郷みたいじゃない?
それに、魔法が使えることがすごく役に立つようだったから。
私魔法使いだけど、《キアリー》くらいは使えるのよ。だからガスの採集にも役立てる。
男がいないのはちょっと寂しいけどね」
れ「そうね。サーヤはガーデンブルグにすごく役立ちそう。
恋が好きなの?サーヤは」
サ「男が好きってこともないわ。でも理想の男性を探してはいる、かな。ステキな男性に抱きしめられてみたいわ。
旅してれば出会えるかなと思ったけど、そうでもないんだもん。
戦士も武闘家もイマイチよ。僧侶もイマイチ。自称勇者と魔法使いはサイアク」
れ「ふふふ」恋の修行はもうちょっと後かな。
れいは来るべき竜の月の11日まで、ガーデンブルグの城下町で楽しく過ごした。
ラナやルナととりとめもなくおしゃべりをしたり、兵士と剣の鞘で手合わせをしたり、町のあちこちのお店を覗いては、真心こめて作られた食品を食べたりした。平和で明るい、良い国だなと、改めて思った。