エピソード184 『天空の城』
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- 8月7日
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エピソード184
竜の月の11日。
朝早くから、いつぞやのように城壁の外に大勢の人々が集まった。
輪の中心にあるのはあの気球で、その準備を学者のマゴットが指揮している。れいも気球の袋が膨らむのを見ている。
マ「改めて簡潔に説明しよう。
天空城は可能な限り低いところまで降りてくる。我らの気球は可能なかぎり高いところまで上昇する。
その2つが落ち合えば、人間が天空城に上陸することが叶う。難解な話ではないだろう」
気球には、れいとマゴットと・・・サーヤはやはり着いてこない。女王も乗せてはもらえない。
兵士を2人付けることになったが、その一人はユーリが抜擢された。れいが安心するだろう、という配慮だ。この国の人々は実利と人情をバランスよく配慮する。

マゴットや助手や兵士たちは、もう気球を飛ばすことに慣れを感じているようだった。野次馬たちも、気球を拝みたいというよりはれいを見送りたいのだった。皆、れいが好きである。
れ「ユーリが城を離れて大丈夫なの?」とれいも城を気遣った。
するとユーリは、
ユ「私の代わりはサーヤに担ってもらいましょう」とサーヤの肩を力強く叩いた。
サ「えぇ、私!?」しかしサーヤは嫌な気持ちでないのだった。
そして女王は、心配そうにユーリに言った。
女「ユーリ?お願いだから死なずに帰ってくるのよ。
あなたは次期国王に、なりそうな人なのだから!」
ユーリは無言で、にっこり微笑んだ。
気球は静かに浮上した。
人々の温かい歓声に袋は更に熱され、勇ましく高度を上げていく。
見晴らしのよいところから景色を眺めるのは久しぶりだな。れいはその過程もきちんと満喫した。
以前北側の温泉町に行ったときよりもさらに高く、ずっと高く高度を上げていった。
誰も数字のことなど把握出来てはいなかったが、その気球は高度5,000メートルに迫ろうとしていた。もう目の高さには何もない。もっと遠くまで行けば山の頂に接することもあるが。
地上は遥か下で、人の姿はおろか、城の形さえわからない。
なるほど。仮にこの高さに天空の城が飛んできていても、それを人が発見することはまず有り得ない。
そして、そんな水色の世界の中で、向こうから近づいてくる物体があるのだった。
白い雲の上に、城が建っている!
れ「本当に天空の城だわ!!」
れいだけでなく、マゴットもユーリももう一人の兵士も驚嘆した。皆、その目で見るのは初めてだ。
その時は少しずつ少しずつ近づいている。何も動いていないようで、少しずつ近づいてくる。
物事は人を焦らすように、ゆっくりと近づいてくる。
れいはハラハラするが、今さらそんな心境を表す言葉も見つからない。
するとユーリが「ハラハラしますね」とれいに微笑みかけるのだった。ここの人々は優しい。
やがて気球は、雲の塊りの上に達する。
マゴットは慎重に気球を下ろす。
城のすぐそばで、2人の女性の兵士が待ち受けている。ピンクの鎧を着て、なんだか可愛らしい。その美しさはガーデンブルグの兵士を思い起こさせる。微笑んでいるように見える。れいはホッとする。
着地が間近になると、2人の兵士は拍手を送る。下界の人間と同じ様な感覚を持っていると見える。れいはホッとする。
しかしこんなところにも兵士がいるのか。