エピソード188 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード188
質問に、質問を重ねる。
れ「世界を平和にしなくても、よいのですか?」
マ「遥か昔、教会にも祀られているメシアの彼はこう預言した。
『新しい千年紀の始まりの頃、メシアが再降臨するだろう』と。
それは誰のことか?
『人々のすべてが、彼(か)のメシアのように旅立つ勇気と戦う勇気に目覚め、他の民族を愛し、平和を築く使者となるだろう』、と。そう言いたかったのだ。
平和は、一人の頑張りでは築けないのだよ。すべての民が、自分でドラキーを退治しなければならない。自分で吊り橋を渡っていかなければらない。自分で、肌の色の違う民と仲良しにならなくては、平和は築けないのだ。皆が、れいのようにならなくてはいけないのだよ。
先ほども言ったが、魔王は何度でも現れる。そなたが討伐したとしても、また新たな魔王は現れるだろう。そして人類というのは、魔物の存在や侵略に怯えながら暮らす。自分が強くならないかぎりは、な」
れ「私ごときに、魔王を倒せるのでしょうか?」
マ「今はまだ、無理だろう。
魔王を討伐すると決意するなら、そなたに魔法の師をあてがう。
そなたを、偉大な魔法使いの元へと送り込む。そこで更なる修行を積めば、魔王に太刀打ちできるやもしれん」
れ「・・・あ!!」
マ「そうだ。
そしてそなたは、偉大なる魔法使いとなる。
祖母を超越するほどにも、な!」
れ「や・・・
やってみます・・・!!」
「大魔女バーバラ。
彼女は下界にいる。
せっかく天空城まで来てもらったのに申し訳ないが、トンボ返りということになる。
いや、ゆっくりしていってもらって構わない。
観光の好奇心で城を散策してもらって構わないし、何日でも泊っていくがよろしい。
触りたいものがあれば近くの者に言うがよい。
食べたいものがあれば近くの者に言うがよい。
大抵は快く受け入れられるだろう。そなたの来訪は皆把握している。そなたが善人であることも皆把握している。
天使たちは、お空の上から世界を眺めているのだよ」
れいはしばらく城を散策させてもらった。
世界樹という植物を育てる部屋があり、れいに《世界樹のしずく》という回復薬をくれた。
天空にも図書館があって学者がいた。「大魔女バーバラは昔、天空の城に住んでいたこともあるのだよ」と教えてくれた。学者は男性で、ここにも男がいるのかとれいは驚いた。
天空人はやはり、ガーデンブルグの民によく似ていた。穏やかで優しく、気さくで明るい。お洒落で美人だが、ガーデンブルグの民よりもやや童顔が多いか。天使というイメージの通りだ。そして少し呑気そうだ。危険も警戒も存在しない環境ゆえか。
男性も少しはおり、やはり穏やかで優しいのだった。男性は天使ではない魂を持っているという。サーヤの探す理想の人は、天空城まで来れば見つかるかもしれない。
天空城において男性は、掃除や庭師など地味な役回りを担う者が多いようだ。または教師である。男性たちは皆優秀だが女性を支配せず、女性たちのサポート役に回る。
下階にはとても広大な庭園があった。城の中に庭がある。まるでマヤの宿のようだ。
この城において、男性は女性を支配していない。女性は男性に支配されていない。ちなみに、マスタードラゴンは男性ではないという。体は両性具有であり、心は女性だ。心は女性だが、敢えて男性の喋り方をしている。彼女は今生において、それを選んだらしい。
教会ではなんと、竜が飼育されている。ぐおーんぐおーんと鳴いている。正義の竜に育つのだろうか。呑気すぎる竜になりそうだが。
マスタードラゴンの子なのか?と思ったが、そうではないそうだ。
マスタードラゴンは何者なのか?と聞きたいが、それを城内で誰かに聞くことも失礼にあたるような気がする。聞き込みした事実とて本人に漏れそうだ。
そんなれいの好奇心を察して、向こうから話してくれる人もいる。
「マスタードラゴン様は昔、人間の体で地上で生きていたことがあるの。何度も、何百年も。地上で冒険するのも飽きてしまったんですって」
この途方もない惑星を飽きるほど冒険したとは・・・一体どれほどさすらったのだろうか。
「でもまたたまには地上に行きたいって言ってるわ。気まぐれな人ね。うふふ」気まぐれなところもあるのか。
テラスに出るとやはり楽隊がいた。
テーブルとイスも並べられている。音楽を聴きながら雑談に耽ることも出来る。
れいが誰かに話しかけるとき、「テラスに出ましょ」と誘う者も多かった。皆音楽が好きなのだ。
なぜ日がな音楽を奏でるのか?様々に目的があるが、天使たちへの情操教育のような意味あいもあるという。魂は、少なからず音楽の記憶を保つ。生まれる前に聞いた音楽を、なんとなくなんとなく覚えている。
天空の城で、美しい、長調の、明るいメロディをたくさん聞いて育つ。すると彼女たちは人間として地上に生まれるとき、なんとなく美しい音楽を好んでその輪に入ろうとする。するとそこには、誠実な先輩がいることが多い、という仕組みだ。それは秘密の道しるべだ。
音楽を聞いて踊り出す者もいる。
れいは1週間も天空城にいた。何をするでもないが、この壮麗な城からすぐに帰るのはもったいないと感じた。
「そういうものよね」と天使たちは笑顔で同意してくれた。彼女たちは庶民の気持ちをよくわかっている。「自分は庶民だ」と彼女たちは言った。特権階級ではないらしい。天使たちは誰しも、天空城で生まれて暮らす生を持つらしい。可愛い翼の服を着ながら。人間の体に慣れるためであり、基礎的な知識を得るためである。
誠実な人間と接することの心地よさを、魂に刻んでおくためである。すると下界に生まれ落ちたとき、本能的に誠実な人を求めるようになるのだそうだ。その心を失ってしまうこともあるが。