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エピソード193 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月22日
  • 読了時間: 3分

エピソード193


れいは少々のためらいを残しながらも、バーバラの元を後にした。

その気になれば逃げ帰ってくればいいや。「倒さなくたっていいのだ」とマスタードラゴンにも言われているし。俊敏性・・・つまり逃げ足に関してはそれなりに自信もあるし。

後には戻れない出陣よりも、これくらいの気負いのほうがれいには合っている。ただ世界が見たかっただけなはずの女の子には。

でも、何かを成し遂げられないわけでもない気がするのだ。マスタードラゴンの言うとおり、通りすがりで竜王なる暗躍者を倒してしまったことは、何気にれいの自信になっている。それに、世界のあちこちでリスペクトされている大魔法使いローズは、いつも揺り椅子に揺れているだけの威厳も何もない老婆であった。

自信を持っていることは大事だ。

自信というか、「出来ないこともないのかもしれない」という一縷の望みを持っていることが。



山は下りた。

魔王クシャトリアなる者が居るのは、フォンニャ洞窟という巨大な鍾乳洞であるらしい。それはクレージュ地方の南東にあるそうだ。れいは再びさすらう。

途中、町とも言えない旅人たちの小さな休息地に立ち寄った際、何気なく「フォンニャ洞窟に行くところだ」と言ったら、道具屋に全力でくい止められた。

道「フォンニャ洞窟だって?そんなの絶対やめとけよ!地獄に一番近い場所って言われてるんだぜ!」

地獄に一番近い場所!

そんな形容詞を聞いて、れいも慄いた。しかし今さら止めようとも思わない。こうした押し問答が続くことが容易に予測できるので、もう自分の行き先について誰かに話すのはやめた。

南東へ進むと、再び山を登らなければならないようだった。風が吹きすさぶ寂しい山だ。大丈夫。そんなことでは怯えない。そのために世界の様々な土地をさすらってきたのだ。

そして山肌の中腹に、れいは小さな洞窟を発見するのだった。



れ「あれ?思ったより小さいな」とれいは思った。入口を見た感想としては、だ。

しかし、洞窟を進むほど、徐々に中は広くなっていった。もちろん魔物が巣食っている。「地獄に一番近い場所」と言われるだけあって、凶悪な魔物がひしめくのだった。

見たこともない魔物ばかりだ。バーバラから教わった、魔物の系統によって弱点を推理する戦い方がとても役に立った。

洞窟はなぜか、とてもジメジメする。湿気がすごい。そして先のほうからほのかに潮の匂いがする。山肌にある洞窟なのに、なぜ潮の匂いがするのだ?匂いは一つの道しるべなのではないかと思い、より匂いの強いほうへと進んでいったが、やがて行き止まりになってしまうのだった。地面に水が浸水して波打っている。そうか、海に繋がっているのだ。

しかし自分の目的地はこの先ではないようで、れいは落胆しながら引き返す。分かれ道はたくさんあったのだ。

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