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エピソード22 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月21日
  • 読了時間: 4分

更新日:6月16日

エピソード22


れいはなんとか逃げ切った。城から離れることさえ出来れば、街ではどうにか雑踏に紛れることが出来る。

とはいえサントハイムの城下町でずっと過ごしてはいられない。装備は最弱、マンドリルを倒せるようにもなっていない、準備はぞんざいだが、この街を飛び出した。

時間が経てば経つほど、街全体に「お尋ね者」としてれいは知れ渡るだろう。

もう、サントハイムには帰ってこられない。

すると・・・つまり・・・愛すべき故郷サランにも、もう戻ってはこられないのかもしれない。

れいは大粒の涙を流した。大声で泣いても誰も聞いてはくれない、同情もしてくれない。れいは声を殺して、しかししくしくとたくさんの涙をこぼしながら逃げ走った。



引き返すことが叶わないなら、もうとことん進むしかない。いよいよ吹っ切れた。

れいは目の前の旅路を、ますます視線を上げて遠くを見た。


追っ手が来る気配はなかった。

一里を走った後、れいは少しの休憩を挟み、歩いて旅を再会した。

馬車道と並行するように、少し姿を消しながら歩いてきたが、そろそろ次の町や村の目星を付けなくては。追っ手はもうないだろう、と希望的観測のもと、れいは馬車道に軌道を戻した。

馬車道なら時々立札がある。ボンモールという言葉はないが、「フレノールの町」という表記がある。まずはそこに行ってみよう。

平野を越え、森を越え、小さな山を1つ越えた。道は長く、野宿を余儀なくされた。れいは、町から町へ移動する際には少々の食料を買い込んでおかなければならないことを学習した。



ほどなくして、れいはフレノールの町に到着した。

のどかな町だ。少し安心する。

れいにとって、まったく初めて訪れる町だった。テンペは何度か行ったことがある。サントハイムは幼い頃に行ったことがある。フレノールはまったく初めてだ。しかし大人の引率もなしに自分の足だけで辿り着いた。

感慨深いものがある。「ついに旅が始まった!」とれいは思った。旅とは、知らない場所へ赴くものだ。


まずは宝石の袋を持って両替え屋に行く。道中で得たお金と元々持っていたお金と、すべて併せて623ゴールドだ。ちょっとお金持ちになった気がする。

何か装備品を買いたい。戦う楽しみよりも命の危機を覚えたれいは、ここでは武器よりも防具に関心がいった。防具屋を覗いてみる。

防「防具の店にようこそ!どんな用だね」

 防具屋の様子を見渡す。サントハイムに置いてあった革製の防具のほかに、洋服のようなものも揃っている。城の兵士用ではなく町の住民用、という感じか。土地によって武具のニーズも異なるのだな。

れいは、自分がゴツゴツとした鎧を身にまとう姿がイメージできなかった。もう少し身軽に、美しく居たい。

《皮の盾》がねこまどうとの戦いで壊れてしまったので、次に防具屋に行ったら真っ先に盾を新調したいと思っていたのだが、色とりどりの服が並んでいるのを見ると反射的にそちらに目がいってしまった。

そして、《サフランローブ》を手に取った。薄紫色のワンピースである。

防「それは僧侶用の防具だが、君は僧侶なのか?」と防具屋は尋ねた。

れ「え!私は・・・私は僧侶ではありません。

 僧侶でないと、着てはいけないのですか?」

防「いけないってこともないがね。僧侶向けに作られた防具だ。

 回復魔力が少し上がるんだよ。回復魔法の得意な人に向くさ」

れ「私、《ホイミ》が使えます」

防「それなら良かった。悪くないんじゃないか?

 で、職業としては何なんだね?」

れ「えぇと、立派な魔法使いになりたいです。いつかは」

防「えぇ!?」

れ「あ、ごめんなさい!」れいは、自分が大それたことを言ってしまったのかと冷や汗をかいた。

防「いや謝ることもないけどよ。

 《銅の剣》を持って、《ホイミ》を使えると言って、それで魔法使いになりたいだなんて変な人だなぁ」

れ「変なのでしょうか?」

防「まぁいいんじゃないか?はっはっは。

 《サフランローブ》、300ゴールドいただくよ」

れいはそこで《サフランローブ》を装備させてもらった。新しい、薄紫色のワンピースを着てとても気分が明るくなった。

まだ300ゴールドほど残っている。武器も買えるだろうか。

サフランローブのれいちゃん 『天空の城』
サフランローブのれいちゃん

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