エピソード23 『天空の城』
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- 2024年7月21日
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エピソード23
今度は武器屋を覗いてみる。
武器屋もまた、サントハイムの武器屋より品揃えが良いようだった。
おや?見覚えのある武器だ。なんと、《聖なるナイフ》が並んでいる。れいは思わず手にとった。
武「それはお嬢さんにぴったりだ。僧侶や魔法使いが使うんだよ。軽いけど切れ味の鋭い短剣さ」
《サフランローブ》を装備しているから僧侶だろう、と武器屋は考えたのだった。
武「200ゴールドだ。《銅の剣》からの買い替えにもぴったりだよ」
れ「え?これは《銅の剣》よりも高いのですか?」
武「あぁそうだよ」
れ「こんなに小さいのに?」
武「大きければいいってもんでもない。
《銅の剣》のほうがまぁ、戦士っぽい武器ではあるが、鋳型で固めただけの廉価品だからね。
切れ味は《聖なるナイフ》のほうが上だよ。だから値段も高いのさ」
れ「そうなのですか。私《聖なるナイフ》も持ってるのです。祖母の形見でして。
もっと大きな剣が欲しいなと感じて、サントハイムで《銅の剣》を買いました。まだこれくらい大きな剣のほうがいいなって思っていますが・・・」
武「なるほどなるほど。
それなら《聖なるナイフ》じゃなくてもいいだろう。高けりゃいいってもんでもない。
戦士っぽい武器でアップグレードしたいなら、まぁ次は《くさりがま》ってとこだな」
武器屋はなんだか物騒な、じゃらじゃらと鎖のついた鎌を取り出して見せた。
れ「えぇ!」強そうではあるが、どんなふうに扱ってよいものか見当もつかない・・・
まだ《銅の剣》でいいか。とれいは思った。もっと強い武器が欲しいというよりは、「《銅の剣》をもっと軽々と振り回せるようになりたい」とれいは感じていた。
武「ふうん。また来ておくれ。
・・・あぁちょっと待て。君、冒険の初心者だな?」
れ「あ、えぇと・・・」初心者と言うとカモにされたりするのだろうか?どう答えればよいのか戸惑ったが、嘘を付くのも無理があると堪忍した。
れ「はい。初心者です」
武「《薬草》3つに《毒消し草》1つだ」
れ「え?」
武「それだけは常に持っていたほうがいいよ。命綱だ。《ホイミ》が使えたって《薬草》は要るんだ。道具屋を覗いてったらいい。新しい町に着いたら、まずは《薬草》の補充だ」
れ「あ、ありがとうございます!」
他人の店の商品を勧めるのだから、押し売りの意図はないのだろう。それに、「複数の《薬草》と《毒消し草》を常に持っておけ」その意見は至極真っ当に思える。
武器屋の言いつけどおり、続いて道具屋を覗いてみた。
《薬草》めいたものが雑多に並んでいる。
お品書きを見ると、「聖水 20ゴールド」というものもある。
れ「すみません。《聖水》って何ですか?」
道「《聖水》ってのは、使うと魔除けになるんだよ。しばらくの間、魔物があまり近寄ってこなくなるんだ。数時間で効果は切れるがね」
魔物が寄ってこなくなる?それじゃ訓練もお金稼ぎも出来なくなってしまう。
れ「そんなことをする意味が、あるんですか?」
道「あるよ。魔物に遭遇せずに洞窟や次の町に辿り着きたいこともあるだろう。子連れの旅で安全に歩きたい、とかさ。
あとはあれだ、魔物に直接浴びせるとちょっとダメージを与えられるよ。微々たるもんだがね。ゾンビ系の魔物だとよく効いたりする。なんでもゾンビってのは、光のエネルギーに弱いらしいんだ」
れ「へぇ」人間と魔物では、浴びていて気持ちいいものが違うのか。
れいは《薬草》と《毒消し草》と《聖水》をそれぞれ1つずつ買った。
武器屋にお礼が言いたいな、と思ってそっちのほうを振り返ると、武器屋からこちらに向かってくるガタイの良い男たちが見えた。冒険者だろう。
れいは彼らの様子をじっと眺めていた。興味があるが何を話せばよいかもわからないゆえ、ただ観察させてもらったのだ。
すると彼らのほうが気づき、れいに話しかけてきた。
戦「可愛い女の子が《銅の剣》なんか持って、君は冒険をしているのかい?」
れ「え、ええ。出てきたばかりなんですけども」
僧「へぇ、一人旅なんて感心してしまうな!」
れ「この辺りは、そんな立派な装備をした勇者じゃなくても魔物を倒せるのです」
魔「そうかもしれないけど、それにしたって女の一人旅は感心だよ!なかなか見るもんじゃない」
戦「で、君の職業は何なんだ?」
れ「え、私ですか?母の背中を追って教師になろうと思っていましたが・・・今は興味を失って、模索中なのです」
戦「いやいやいや、そういうことじゃなくてだな!
そうじゃなくて、戦士だとか僧侶だとか、あるだろう。冒険者において『職業』ってのはそういう意味さ」
れ「あぁ!えっと、私、何なのでしょうか?偉大な魔法使いになりたいのです」
僧「えぇ?そんなこと言って、《サフランローブ》に《銅の剣》だって?」
れ「魔法使いになりたいのですが、まだ《ホイミ》しか使えないので、《銅の剣》で戦っています」
僧「なるほどなぁ。それで職業不明の冒険者が出来上がったってわけか」
そうえば冒険者たちというのは、見た目からどんな職業なのか大体察しがつく。皆その職業のアイデンティティを踏襲して装備を整え、戦っていると見える。
れ「そうだ。魔法はどうやったら会得出来るのですか?」
魔「普通は師匠について基礎を学ぶんだよ。課題を達成したらイニシエートしてもらえるよ。
あとは戦いを重ねながら習得していくものもある。
それと、あちこちにいる賢者みたいな人が伝授してくれることもあるなぁ。
そういえばフレノールの町長さんは、魔法の使い手じゃなかったか?気に入ってもらえたら《メラ》の1つくらい伝授してくれるかもしれんぞ」
れ「へぇ!」おぉ、これは良い情報をもらった!
れ「ありがとうございます!
何か恩返しをしてさしあげたいのですが、出来ることが何もなさそうで・・・」
戦「いやいや礼には及ばんよ!」
町の者と会話になると、「サントハイムの大臣が大変そうですね」とそれとなく話を振ってみたが、誰も事件のことは知らないのだった。少なくとも指名手配がこの町まで届いていたりはしない。れいは安堵した。