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エピソード24 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月21日
  • 読了時間: 5分

エピソード24


サントハイムにせよフレノールにせよ、冒険者らしき人たちと時々すれ違う。彼らは立派な武器や防具を装備している。どうも冒険者が入手すべき武具は、《皮の鎧》や《青銅の剣》が最終到達点ではないようだ。それすらまだれいは入手出来ていないのだから、冒険にはたくさんのお金が必要と見える。

そして、大臣に化けていたねこまどうが放った《メラ》は、小さな火球だった。れいがなんとなく知っている知識では、大魔法使いというのはもっともっと大きな炎や氷やよくわからないエネルギーを放つはずだった。

つまり、「強くなる」という点においてもまだまだ途方もなく上を見据えなければならない・・・。世界というものがどれだけ広いのかというのが、れいにも少し見えてきた。まだ隣の国にすら出られていないという現状で、すなわち世界の広さが推し量れる。世界にはたしか、200もの国があるんではなかったか?

つまるところ、冒険とはあこちちの街を歩くことではなく、その周辺で戦闘を重ねなければならないのだと悟った。どれくらい戦闘すればよいのか?その目安はある。1つは、そのエリアの魔物と対等以上に戦える技量があるかだ。そしてもう1つは、その街の武器屋防具屋で売られている高めの武具を入手できたかどうか、だ。そうなれば、より手強い地域への挑戦権が得られたとみなせる。

よし、外に出て魔物退治の訓練をしよう。


フレノールの周辺は、生息する魔物の種類はサントハイムに似ていた。ここにもドラキーやいっかくうさぎやマンドリルが出没する。しかしこの辺りでは、魔物たちが3匹、4匹と徒党を組んで襲ってくることが多い。すると一人で応戦しなければならないれいなどは特に、手強さが大きく増すのであった!

マンドリル以外の魔物は、れいの《銅の剣》の一振りでも倒せることが多くなった。一対一の戦いなら、それで魔物からの攻撃を受けることがほとんどなくなるのだが、相手が複数いるとそうはいかない。幸先よく攻撃して一匹仕留めようとも、残った魔物が反撃してくる。れいは息つく暇もなく、その攻撃をかわさなければならない。かわせずにダメージを受ける。やはり、また盾を入手して上手く跳ね返したいと痛切に感じる。お金を貯めなければ。

そして、ずっと反復横跳びのように駆け回りながら戦うのは、ひどく疲れる。やはり少し後方から構えて、魔法でボボンとやれたらいいのに。そう願わずにはいられない。

フレノールの町長さんに掛け合ってみるか。



町に戻り、町長を探す。そうだな。物知りであろう町長さんには、ボンモールの場所だとか色々聞かなければならないことがありそうだな。考えながられいは歩いた。

町長は大きな屋敷に住んでいた。庭のテーブルで茶を飲んで、新聞を読んでいる。

れ「あのう、町長さんでしょうか?」

長「ふむ。そうだが?」

れ「私、サランという田舎の者です。広い世界を見たいと思って冒険に出てきました。

 あの、この《サフランローブ》はこの町で買いました」れいは端的に自己紹介を済ます。

長「ほうほう、それはどうもありがとう。寝泊まりに困っているのか?この町には宿屋が2軒あるぞ」

れ「いえ違います。

 あのう、町長さんは魔法が得意なのですか?

 私、魔法使いになりたいのですがまだ魔法が使えません。《メラ》くらいは使えるようになりたいなと憧れています」

長「魔法の伝授もやってはいるが・・・

 《メラ》とて1万ゴールドはかかるぞ?」

《サフランローブ》をまとう華奢な女の子にそんな金はないだろう?という表情をしている。

れ「え!そんなに・・・」全然足りない!

長「なにしろ魔法は一生モノだからな。武器や防具よりも高いもんだよ」

れ「そうなのですか」れいはしょぼくれて、町長の庭から立ち去ろうとした。

長「まぁ色々と、知識も戦闘経験もじっくり積むといいよ」


れいは立ち去ろうとして、しかし振り返った。

れ「あのう、町長さん。

 もし、サントハイムのお役人などやってきて、『紺色の服の娘はどこだ?』と怒鳴り込んできたとしても、どうか『そんな娘は知らない』と答えてはいただけないでしょうか?せめて、10日間ほどの間だけでもよいのです。私がボンモールの国に抜けるまでは・・・」

町「ほう。複雑なことを言うもんだなぁ。

 どれどれ。わけを話してみなさい。

 お嬢さんが可哀そうでも、悪者の味方をするわけにもいかんよ。わしは町長じゃしなぁ」

れ「いえ、その・・・

 やっぱりいいです!」れいは駆け出そうとした。

事の顛末を話すわけにもいかないと感じた。信じてもらえないかもしれないし、端的に説明するのは難しい。

町「待ちなさい!

 こちらへおいで。君は誰かの助けが必要なようだ」

町長はれいの頭に手を置き、ゆっくりと目を閉じた。

町「ふむ」霊視を使ってれいの過去を探っているのだった。

町「ふむふむ・・・」

すると町長は、しくしくと涙を流し始めた。

町「お嬢さん!わかったよ。わかった。

 いや大変だったなぁ。一人で抱えるには重すぎる!」

れ「えぇ!?」

町「君の過去を少し探らせてもらった。

 サントハイムの大臣が悪者なんだろう?

 それを懲らしめようとしたのに、迫害を受けてしまった。そして逃げ出してきてフレノールに着いた。そうだろう?」

れ「は、はい・・・」れいは悲しい記憶が込み上げてきて、胸の痛みに涙がこぼれた。

町「よし。正義の戦士に魔法を授けよう。

 《メラ》と、そして氷の刃をぶつける魔法《ヒャド》だ」

れ「でも、私、お金が全然ないんです」

町「はっはっは。お金はとらんよ。

 魔法の代金はね、覚悟賃みたいなもんさ。

 サントハイム城における君のその勇気と正義が、《メラ》と《ヒャド》の覚悟賃だ」

れ「本当ですか!?」

町「本当だよ。心配するな。皿洗いすら求めんよ」

町長はれいの頭を優しくなでた。

そしてそのまま、《メラ》と《ヒャド》の儀式(イニシエーション)をれいに与えた。


れいの両手はまたしゅわしゅわと、エネルギーに満ちている!

れ「わぁ・・・!」

町「しかしくれぐれも気をつけなさい。魔法は便利だが、その分危険だ。

 特に火の魔法はとても危険だよ。

 それで火事など起こらないようにな。何かに引火したら、《ヒャド》で相殺するんだ。わかったな?」

れ「わかりました!」

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