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エピソード28 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年11月1日
  • 読了時間: 3分

エピソード28


れいは暗くなる前に宿屋を探した。

宿屋のロビーには小さな本棚があり、古い本が幾つか並んでいる。

れいは本の背表紙を眺めてみた。

『冒険者の魔法 -旅立ち編-』という題の本がある。れいはそれを手にとって、ロビーでペラペラと眺めた。

宿「お部屋に持っていっても良いよ」店主が気さくに言うので、お言葉に甘えることにした。

もともと読者が好きなれいだ。旅立つと本など遠のいてしまうのだろうと思っていたが、そうでもないのかもしれない。

《メラ》や《ヒャド》は魔法使いの魔法。

《ホイミ》や《キアリー》は僧侶の魔法。

などと順序だてて書いてある。なるほど、一般的な冒険者や志望者は、こうした基礎知識は当たり前のように持っているのだろう。



翌朝。

指名手配されていないのなら、急ぐことはない。いや、決して強くないれいは、急ぐべきでない、と言ったほうが正しい。

出来れば立派な盾と立派な剣を調達してから次の土地に向かいたい、とれいは構想した。今日は一日、戦闘訓練に費やすか。

魔法を覚えて強くなった!という自意識も相まって、れいはまた少し強くなった。今やいっかくうさぎはスライムのように感じる、マンドリルが現れても慌てない。

れいは少しの退屈を感じたので、思い切って町からもっと離れてみた。すると案の定、違う魔物と遭遇する。

なんだこれは!

炎のお化けだ!

メラゴースト
メラゴースト

荒野で遭遇したメラゴーストという魔物は、炎が頭脳を持ってうごめいている。

そしてまさかと思ったが、そのまさかだった。《メラ》の魔法を使ってこちらに襲い掛かってくる!

剣で斬りかかっても手ごたえはない。

昨日習得した《ヒャド》が効くので、れいは事なきを得た。

そうだ。魔物だって《メラ》や魔法を使って攻撃してくるのだ。間合いを取れば一安心、というわけでもないことに気づき、改めて気を引き締めた。

数時間の戦闘の後、魔力が枯渇したので町に戻ることにした。


戻りながら考える。

戦士と魔法使いはどっちが良いのだ?

メラゴーストのように剣の攻撃が通じない魔物がいるなら、魔法使いのほうが優位か。

しかし魔法使いは、魔力が尽きてしまったら何も出来なくなってしまう。うーん。

そうか。だから冒険者たちは様々な職業の者がタッグを組んで戦うのだな。



町に戻ったところで何をしようか。宿屋で眠る時間ではない。

れいは、教会に行って魔法の本のお礼でも伝えようかと考えた。

教会に行ってみる。今日も講壇に神父の姿はなく、れいは前の扉から畑に出てみた。

畑にも神父の姿はなかったが、れいは畑をなんとなく眺めた。

サラダ菜のようなものをせっせと育てているようだった。株の1つは、酷く虫に食われていて痛々しかった。れいは思わずそこにしゃがみこんで、その株に両手をかざして《ホイミ》とつぶやいた。葉の虫食いは少し修復されたようだった。れいはふふっと微笑んだ。

すると、小さな鳥がれいの足元に、小さな丸いものを落としていった。

れ「何かしら?」

注視してみる。見たこともない、珍しい木の実だ。可愛らしい形をしている。

拾い上げて少し考えた。神父の木の実だったら勝手に持っていくのは気が引ける。しかし小鳥が落としていったものだから神父のものではない。「もらってこっと」れいはそれをポケットに入れた。

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