エピソード29 『天空の城』
- ・
- 2024年7月21日
- 読了時間: 3分
更新日:2024年7月24日
エピソード29
そうだ。お金がまた結構貯まったはずだ!
れいは両替え屋で換金をし、防具屋に行ってみた。
盾が欲しいが、《皮の盾》はまた《メラ》ですぐ朽ちてしまいそうで不安だ。その上のグレードの《うろこの盾》も魔法攻撃への耐久性に乏しいような気がした。
「よし、これだ!」350ゴールドもしたが、れいは思い切って、《青銅の盾》を買った。これなら《メラ》を何発だってはじけそうだぞ!
しかし、これはこれで難点がある。《皮の盾》よりもずっと重い・・・。今度はこの重さに耐えられるように訓練するぞ!とれいは目標を持った。
その日、翌日とコツコツと戦闘訓練を繰り返し、見事《青銅の剣》も入手できた。
《サフランローブ》、《青銅の剣》、《青銅の盾》を装備して、「ようやく町娘ではなくなったな」と思った。
ボンモールとの国境はここから北にあるとのことだった。
北と言えば、メラゴーストという奇妙な魔物と遭遇したエリアだ。知らない魔物がたくさんいるかもしれないし、メラゴーストと大勢遭遇するだけでも厄介である。奴と遭遇したときのために《ヒャド》を撃つ魔力を残しておかなくては。
そんな目的意識も相まって、入手したばかりの《青銅の剣》を威勢よく振り回した。
やがて大きな川が見えてきた。海かと思うほど大きな川だ。この川がサントハイム領とボンモール領を隔てているのだ。
馬車道に沿って進めば、川に大きな橋が架かっているのが見える。そして川の手前に、関所があるのだった。ここでサントハイム王から授かった通行手形が役に立つ。大臣の件があったのは通行手形を得た直後で本当に良かった。
関所には小さな列が出来ていた。人も馬車も並んでいる。人も積み荷も、通ってよいものかどうか審査を受けなければならないのだ。
れいは国境通過という初めてのことにドキドキしながら、しかしそれを表に出さないように平静を装った。
何をすればよいのだろうか?前に並ぶ者たちの所作をそれとなく観察する。紙に何かを書いて提出するようだ。
自分の名前と出身の住所。出国の目的、今日の日付け、そんなところだ。
大きな音でスタンプを押され、すぐに通されていく者もいる。何か言及されて詰問されている者もいる。れいは自分がお尋ね者である可能性があることを思い出し鼓動が高鳴ったが、極力それを考えないようにした。何かあるとしても、今苦悩してももう遅い。
れいの番となる。窓口の兵士に通行手形と出国書類を差し出す。
兵士は怖い顔をして手形や書類を見ている。れいの顔をちらっと見る。
兵「そなたは一人なのか?」
れ「は、はい」
兵「15歳にして?」
れ「はい」
兵「・・・・・・」
兵士は通行手形と出国書類をしばらく眺めて沈黙したが、やがてスタンプをスパンと押した。
通れた!無事に出国完了だ!使命手配が国境にまで出されてはいないようだった。
緊張の審査を終えると大きな橋を渡る。馬車が両側で通れるほど幅広で大きな橋だ。
新しい匂いがする。いや、出国という感慨に耽るから「新しい」と感じただけかもしれない。それはボンモールの匂いではなく、あくまでこの川の匂いだ。しかし旅人当人にとって真実はどうでもよいのだ。空気の匂いや人の肌の色、そんな些細なもので「異国に来た」と実感し、胸を震わせることが、旅なのである。
橋を渡り終えると、奇妙なことに、またさっきと似たような関所があった。
そしてまた同じような書類を書かされ、同じように通行手形と書類を提出する。怖い顔の兵士が立ちはだかる。まるで5年前に戸棚のクッキーを食べてしまったことまで詮索するかのように書類か心か何かを読まれ、そして無駄に大きな音でスタンプを押される。
何で同じことを2度繰り返すのかれいはよくわからなかったが、最初のものは「出国審査」であり、2度目のものは「入国審査」であった。