エピソード39
次はどこに行こうかな?
「サントハイムを出たい」「サントハイムから出なければ」という目的を果たすと、れいにはこれといってさすらう目的がないのだった。ローズのように魔王を倒すのか?いやいや馬鹿げている。
世界のどこかには圧倒的な絶景などあるはずだ。それを見たい気もするが、あまり情報はない。風景を求めて旅する人などあまりいないようだ。
うーん。どうしよう。
救いなのは、この数週間のさすらいの中で、「過程が楽しい」と気づいたことだ。フレノールもイムルも、おそらく世界的に見ればとても無名な町だろう。しかしそんな町に訪れ、見たり聞いたりすることも楽しい。イムルの次に訪れるのも、またまったく無名な町でもよいのかもな、と思った。
「私が歩いて辿り着けそうな町はどこか?」と尋ねると、「砂漠のバザーが面白いぞ」という話を聞いた。
なんでもこの近くに、1か月間ほどの間だけ開催されているバザーがあるらしい。それはキャラバン隊商によるもので、次々と場所を変えていくのだ。めったに見られるものではないし、珍しい品が多数並ぶらしい。が、値段を吹っ掛けられたりインチキ品を掴まされたりすることもあるそうで、警戒が必要だとのことだった。
まぁ買い物への興味が強いほうではない。ウインドーショッピングをして、雰囲気だけ楽しんでくればいいと、れいは思った。砂漠なんていうのも行ったことがないぞ!
イムルから北に3時間、砂漠が見えてきた。もうすぐバザーが見つかるはずだ。
砂漠に突入した頃、他の冒険者が魔物と戦っているところに遭遇した。
細身の剣を操る戦士だが・・・女か?体が細く、身のこなしが軽く、髪も長い。
動きは俊敏で剣の振り方がクールだ。こんな美しい戦士がいるとは。そして強い。
ハラハラもせずに、観劇でもするかのごとく見入っていたのだが、事態は急変した!
なんと剣士は砂漠の砂に足を取られ動きが鈍り、その隙を他の魔物が攻撃しようとしている!
れ「危ない!」れいは反射的に駆け寄って、背後の魔物に《ヒャド》をお見舞いした。
剣士は体勢を立て直し、眼前の敵を見事にやっつけた。
れ「良かった!」れいが微笑みかけると・・・
剣「ふん。余計なことをしてくれたな」
れ「え・・・!」女剣士は無愛想な顔をしている。
剣「・・・じゃなかった。
助けてくれてどうもありがとう。感謝する」
れ「えぇぇ!?」意味がわからない・・・
れいは剣士に駆け寄った。剣士は体の砂を払っている。
れ「ごめんなさい。私、余計なことをしてしまったんでしょうか?」
剣「いいや、『余計なことをしやがって』は、昨日のオレが言ったんだ。
そして今日のオレはおまえに、『ありがとう』と言う。
とにかく、本心は感謝のほうだ。気分を害して済まなかった」
れ「あ、はぁ」
デ「オレはデイジー。オレなんて言ってるが女だ。
一人旅をしている」
デイジーは握手をしようと手を差し出した。れいは応える。
れ「私はれいと言います。私も一人で旅をしています」
デ「砂漠のバザーに行くのか?」
れ「はい。そのつもりです」
デ「一緒に行こう」
れ「ぜひ」
・・・れいは「ぜひ」と答えたが、この人が何を考えているのか、どう付き合っていいのか、まだよくわからず戸惑っていた。
デイジーは察した。
デ「オレはこれまでやたら突っ張って生きてきたが、最近はちっとは丸くなりたいと思ってるんだ。
人が優しくしてくれたなら、ちゃんと感謝を言えるようになりたい。人の長所を褒めたい。
でも男の冒険者となれ合いしても良いことなどないだろ?改心の機会はなかなかない。
おまえみたいな女の冒険者と出会えたのは、オレにとって幸運だ」
不器用な人、ということだろうか。または、モテすぎるのかもしれない。おしゃれをしたら美人になりそうな感がある。少なくとも、れいに対して悪意も敵意もないようだ。
れ「私こそ幸運です。まだ冒険のことがよくわからなくて」
デ「そんな華奢な体で、女一人で国を離れてきたのか?」
れ「はい。つい先日のことです。
デイジーさんも、腕っぷしの強さのわりに華奢な、いえ、細い体です」
デ「デイジーでいい。オレは線が細くとも筋肉でパンパンだ」
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