第7節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
- ・
- 8月27日
- 読了時間: 5分
第7節
ある日・・・
二人が村長のところにいると、さらに来客があった。ホンダラという、村の中年男である。大ババの息子だ。ノアやユキが関わることはほとんどない。
ホ「村長、カネを貸してくれたまえよ。1000ゴールド(約10万円)ほどさ」
モ「何?1000ゴールドだって!?
そんな大金を一体何に使うというんじゃ!?」
ホ「ほら、ほむら祭りがもう近いだろ?
ご神託の儀式に使うマリハナを、北の村まで買いにいかなくちゃ」
ノ「カネって何のこと?」ノアとユキはその様子を遠巻きに見ている。
ユ「引き換え券のことさ」
モ「あぁ、ご神託の支度か。
それにしても1000ゴールドも要らんじゃろ?たしかマリハナは100ゴールドじゃったぞ」
モ「それが最近値上がりしたっていうんだよ。
いや噂だから確かなことはわからんけどさ?でも行ってみてから『足りませんよ』じゃ困るじゃないか。北の村まで半日も歩くんだもの」
モ「まぁそれはそうじゃなぁ。あまりが出たら返すのじゃぞ?」
ホ「はっはっは!わかってるって!」
モーセはホンダラに、1000ゴールドを手渡した。
ホ「はっはっは!じゃぁな」
ノ「村長さんは、他の村に行ったことがあるのですか?」
モ「ほうほう。もちろんだとも。それは刺激的な冒険じゃった!」
ノ「他の村はコーミズとは全然違うのですか?」
モ「それもあるがな。村の外に出れば魔物に出くわすからな!
奴らと対峙するのはとても刺激的なことじゃよ!」
ノ「魔物、ですか?」
モ「知っておろう?娘たちとて。
大ねずみがどこからか侵入してきて、悪さをすることがあるじゃろう?村の男たちがモリを片手にやっつける」
ノ「あぁ、見たことがあります。
でもそれはクマや牛とどう違うのですか?」
モ「あまり違わんがな。
魔物は動物よりも凶暴じゃよ。人間を襲いたがる。
それに、やっつけると消滅してしまう。だからクマや牛とは違うことがわかる。
魔物とは何なのか、誰もわかっておらんがのう。
とにかく、村の外に出ればそういう輩が襲い掛かってもくる。
ユ「村長さん、クマより強い生き物を退治できるのですか?」
モ「ほうほう!わしとて昔は、ユキのようにたくましい体をしておったさ!
それに、わしには奥の手があった」
ユ「奥の手?」
モ「流れてくるガラクタを集めとったのはわしの親とて同じでな。
そのコレクションの中には、剣なんかもあったのじゃよ」
ユ「あぁ」
ノ「けん??」
モ「木よりもずっと堅い物質でできた、長い刃のことじゃな」
ノ「石の矢じりでしょう?」
モ「違う。石の矢じりよりももっと堅い!
堅いのに薄くて、切れ味が鋭い。
ほれ、実物を見たほうが早いな!」
モーセはそう言うと、ガラクタの山から古びた剣を2、3取り出してノアに見せた。
ノ「うわぁ・・・!光ってる!
フシギなものです!」
モ「漁で鍛えた体とこの剣があれば、クマより強い生き物にとて勝てるのじゃよ!」
ノ「外にも村があるなんて・・・」
ノアは剣をまじまじと眺めながら、違う村のことを想像していた。
ユ「ほむら祭のときとか、たまに来るじゃないか?ノアも他の村の人を見たことがあるだろう?」
ノ「そういえばあるけど、ほとんどしゃべらないし。違う村の暮らしなんて、想像したこともなかったの」
ユキはモーセに向いて尋ねた。
ユ「そういえば、他の村の人たちとケンカしたりすることはないのですか?」
モ「ほうほう!この島には5つばかし村があるが、みんなわしらコーミズのきょうだいみたいなもんじゃよ♪」
2人「えぇ!?」
モ「おぬしらも知っておろう?
コーミズの民は、人類の始祖。人間はまずこの村に降り立った。やがて人の数が増え、北の村や東のモンバーバラへと旅立っていったのじゃよ。もとをたどれば祖先は同じ。きょうだいみたいなもんじゃなぁ。
だから島の者たちはケンカなどしない。
・・・いや昔はそうじゃったが、だんだんと兄弟愛を見失う者たちも増えてきた。じゃから道中だけでなく、村にたどりついても少しは警戒が必要じゃな。
悲しい世の中じゃよ」
ノ「人と人との付き合いって、なかなかうまくはいかないものなのね・・・」ノアはその言葉に大きな感慨を込めてつぶやいた。人付き合いで悩んでいるのは自分だけではないようだ。
ユ「ところでノア、この村がどうしてほとんど魔物に襲われることもなく平和続きか、知ってるか?」
ノ「え?知らないわ。神様に守られているから?」
ユ「はっはっは。女ってのは本当に平和ボケしてるな。
神様じゃないよ。村長さんに守られてるからさ!」
モ「これ!言うでないといっとるじゃろが!」
ノ「えぇ!?村長さんが守ってくれていたの!?」
ユ「村長さんがしょっちゅう警備してくれてるんだよ。
夜中までもね。魔物の侵入は夜中が多いしね」
ノ「だから村長さん、午前中はいつも眠そうだったのね!
そんなの・・・子供たちはぜんぜん気づいてないかも!」
モ「無暗に話したくないんじゃよ。
さすれば魔物におびえずに笑顔で暮らせるからな」
ノ「村にそんな裏側があったなんて・・・!」
世界というのは、周りの大人たちに知らされていることだけで成り立っているわけでないのだと、気づきはじめたノアだった。
モ「あぁそうそう、ノアよ?
おぬし、あんまりユキとイチャイチャせんほうがいいぞ?ユキは女子(おなご)からモテるからなぁ」
ノ「イチャイチャって!そんなことしません」ノアは顔を赤くした。ノアは恋や好意というものをあまり考えたことがなかった。
ユ「僕はモテませんよ、村長さん」
ユキは実際、村の女性たちにそこそこモテた。とてもハンサムという男でもないが、穏やかで、爽やかで、精悍な顔立ちをしていた。
ノアはノアで村の男たちによくモテた。美しい瞳を輝かせ、控えめで優しく、踊りが上手い。踊っているときには別人のように華がある。そのギャップがいい。
しかしこの村の民は男も女も、あまり異性に好意を見せることをしなかった。恥ずかしがりな民であった。



