エピソード44 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード44
神父はれいの顔を見ながら、さらに話した。
神「もっと自分を高めたい、とお思いですか?」
れ「はい」
神「あなたにお勧めの課題があります。
相手の目を見て、話すようにしましょう。
コミュニケーション能力であり、愛想の練習です。
あなたは少しシャイなのでしょうね。それは悪いことではありませんが、もう少し自信を持った表情をし、力強く話したほうが、人から信頼を得られやすくなると思います。
今はまだ、『親の保護が必要な子』というふうに見えます。
れ「はい・・・」たしかによく心配されている。
神「時には冗談を言ったり、皮肉を言ったりすることも良いことですぞ。相手の頭をなでたり、肩を抱きしめたり出来るでしょうか?
これらは魔法の習得と同じで、簡単に会得できるものではありません。しかし、旅というのはその練習にとても役立ちます。出会いと別れが多いから、ですね」
なるほど。何の教科でもないが、学んだほうが良いことのようだ。
れいは町で聞いた話をデイジーに報告した。
やはり吸血鬼とやらを討伐しに行こう、ということになった。
翌朝2人は町を出発する。
丘は森に覆われていて、見るからに物騒だ。普通の町人は近寄りたいとは思わないだろう。しかし馬車の轍は残っていて交通の形跡があり、訪問が困難なわけでもないようだった。
丘の麓に立つ。怪物の城以前に、森に分け入ることに緊張するが、まぁデイジーがいるから大丈夫だろう。れい一人では、まだこのような世直しは決行していなかったと思われる。
森に分け入って少しすると、立札がある。
『財産目当ての女性はお断り!』
デ「なんだこれは。どういう意味だ?」
れ「吸血鬼は、人の来訪を拒みたい?」
デ「逆に、『財産を持つ男がいる』、とそそのかしているようにも思える。
わざわざこんなことを書く必要があるか?」
れ「『お断り』と書いて、逆に好奇心を刺激しているの?」
デ「少し森に分け入って、怖いからやっぱり帰りたい、と思ったところで『金持ちがいる』と誘惑している。そう見える」
れ「すると、魔物ではなくて、人?」
デ「いや、まだ魔物の可能性はある」
れいとデイジーは身構えながら歩いたが、森の中に魔物の姿は無いのだった。つまり、「怖い」という恐怖心さえ乗り越えられれば、か弱い女性でも城へ到達は出来る。
やがて城へと辿り着いた。
立派な城だが、手入れはあまりされておらず、気味悪さも漂う。
カンカン。扉をノックする。
何の返答もない。
カギがかかっていないので、入ってみることにした。魔物だったら「どうぞ」とは言わないだろう。
広いロビーの先に、2階へと続く左右の曲がり階段。貴族の館によくある造りだ。
カビや埃の匂いがするが、人の住む気配もある。しかし静かだ。
カツン、カツン、カツン。二人の足音だけが館内に響く。すると、
男「誰だ!」2階から警戒の怒鳴り声が響いた。
階段から中年の男性が身を乗り出してこちらを見る。魔物や怪人ではなく、普通の人間のように見える。
れ「ご、ごめんなさい!」
男「なんだ、レディかぁ」
侵入者が女性だとわかると、男は急に態度を柔和にした。