top of page

エピソード4 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年7月21日
  • 読了時間: 5分

更新日:1 日前

エピソード4


のどかな道を少し歩けば、サラン村の村長の家はある。

犯罪の少ない村だ。村一番の権力者の家さえ、玄関も戸も開け放たれている。

れ「村長さん。いますか?」

れいは家の中を覗くが、シーンとしていた。

耳を澄ましてみる。

ザク、ザク、ザク。どこからか音がする。

れいが裏庭へ周ると、村長は畑仕事をしていた。

れ「村長さん、こんにちは」

村「おぉ、ローズちゃんとこの子か」

村長は振り返って汗をふいた。

カリン村長 『天空の城』
カリン村長 キャラデザ by 絵夢さん


れ「相談ごとが、あるのです。お話聞いてもらえますか?」

村「ほっほっほ。

 旅立ちたいのか?」

れ「えぇ!?

 どうしてわかるのですか!?」

村「ワシは、この村の村長じゃよ」村長はお茶目にウィンクして見せた。

村「200人しかいない村じゃ。村民の考えてることぐらい、なんとなしにわかる」

れ「私なんて、村長さんとほとんどお話したことないのに!?」

村「ローズちゃんとこの孫娘じゃよ。

 それが15歳のときにどんな思いを抱くか、それは察しがつく。

 いや、もっと言えば・・・ローズちゃんからも頼まれておる。もう5年も前じゃから忘れとったけどな」

れ「お婆ちゃんから?」

村「あぁ。れいが旅立ちに悩んだら、背中を押してやってくれとな。

 親が反対するやもしれんし、『立派な職に就かねば』と自分で自分を縛っとるやもしれんし」

れ「どうしてみんな、私のことがわかるの!?」

村「愛しとるから、かなぁ。

 村に人が1,000人おったら、こうはいかんよ。でも200人ならな、気が周る。

 れいちゃん。

 おぬしは頭の良い子じゃが、もっと思慮深くなれる。そのために、世界を見てきなされ。

 先生になるのはその後でよいじゃろ。

 ママよりも立派な教師になりたいなら、世界を見てきたほうがえぇ。

 ワシがそう言って、ママを説得してやるよ♪ほっほっほ」

れ「ありがとう・・・!」

村「今晩おぬしの家に行くよ。

 ワシと一緒に、打ち明ければえぇ。一人で抱え込むことはない」



その日の晩、夕食を食べた頃、村長は本当にれいの家まで来てくれた。

父「カリン爺さん・・・?」

村「れいちゃんが両親に、話があるそうじゃぞ?」

そう言って村長は、れいの肩に手を載せた。

村長によるその助力は、頼もしいとも言えるし、強制的に逃げ場を断ち切られてしんどいとも感じられた。

しかしこれは、れい自身が乗り越えなければならない壁だ。

「お母さん、お父さん。

 ・・・・・・。

 私、お婆ちゃんみたいに冒険に出たいの。

 どうか、お許しをください!」

れいはぎゅっと目をつむり、両手を握って天に身をゆだねた。

母「おほほ。行ってらっしゃい」

れ「えぇ、いいの!?

 教師にならなきゃダメって怒るかと思ったのに!!」

母「親なりに、心配や葛藤があるのは事実よ。

 でもね、止めてもどうしようもないことに抗ってもしょうがないと思うの。

 それにね、実は・・・

 お婆ちゃんに昔から言われてたことなのよ。

 『れいはやがて冒険の旅に出たがるだろう』ってね。

 『そういう魂の子なのだよ』って」

れ「冒険に出る魂の子・・・?」

母「そう。いいえ、冒険に興味がないなら出なくたっていいの」

れ「えぇ!?意味がわからないわ」

母「お婆ちゃんが言いたいことはこう。

 『子供の進路を強要するなかれ』ってことよ。

 『進路について大きな重圧を背負わせるなかれ』ってこと」

れ「・・・!」

母「『ローズの孫だから冒険に出なさい』と育てられても、

 『レオナの子だから教師になりなさい』と育てられても、

 どちらにせよ重圧に苦しんだでしょう。

 『それはかわいそうだ』ってお婆ちゃんは言ったの。

 私自身も、お婆ちゃんからそう言ってもらって育ってきたのよ」

れ「お母さんも?」

母「そう。私は母が偉大な魔法使いだって知ってたわ。

 魔法使いの娘は魔法使いにならなければならないって、幼いながらに思ってた。ロマンを感じたけど、重圧でもあった。

 そんな私にお婆ちゃんは言ったの。

 『どちらでもいいのよ』ってね。

 そして私は、お婆ちゃんを真似ずに教師になったわ。

 そんな私が、娘に『ママと同じ仕事をしなさい!』って言えると思う?そんなのバチ当たりよ。

 いいえ。神様が私にバチを与える前に、私が良心の呵責に苦しむの」

れ「お父さんは?」

父「父さんは、娘が幸せであればそれでいいと思っているよ。

 娘を抱きしめていられるのは5歳までだ。そういうもんさ」

村「ほっほっほ。良かったな」

村長はもう一度、れいの肩をぽんと叩いた。


れいは泣きだした。

安堵の涙であり、うれし泣きであり、そして感動の涙でもあった。

れいはたくさんの本を読んで育った。

本が言うには、親というのは常に子にとって不理解な生き物であり、頭が硬く、子が自由を欲したときにそれを阻害する生き物だと描かれていた。世界はそういうものなのだと、れいは思い込んでいた。

しかし、他でもなく自分の家庭は、違ったのだ。

他でもなく、自分の村は違ったのだ。

れいは涙が止まらなかった。


その晩れいは、とてもよく眠れた。

ここ数年で最も安らかに眠れた、と言っても過言ではなさそうだ。心が安らぎ、満たされていたからだ。

・・・主人公の心はとても安らぎ幸せに満ち、この物語はここで終わってしまいそうだが、いいやそうではない。れいの旅はここから始まるのだ。


旅立ちはいつも不幸でなければいけないのだろうか?

そんな決まりはない。

bottom of page