エピソード53『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』
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- 2024年5月2日
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更新日:2024年6月30日
エピソード53
穴の先に国境の役人など徘徊していたら絶望であったが、人影のない場所に続いており、一行は安堵した。
どこか快適な町で休みたかったがそのアテも体力もなく、馬車を囲いながら静かに野営を張って、ささやかに夜を越えた。
翌朝起きると、一行はまず、再びその穴を埋める作業に取り掛かった。
このままにしておくわけにはいかない。
やがてまた、国を越えようとする冒険者が役立てられるように、トンネルは隠しておくべきだと考えた。
ライアンはライアンで同じことを考え、向こう側の穴をひっそりと塞いだ。
こうして国の歴史書には残らぬまま、何かが動いて何かが変わっていくのだった。
一行は、この国における情報を何も持ち併せていなかった。
小さな村の場所すらわからない。
ア「ライアンに何か聞いておくべきだったな」とアミンは悔やんだが、ライアンが知っていたとも思えない。
一行はあてもなく馬車を走らせた。時々、人が通ったような畦道を見つけるとそれに沿って進んでみた。幾つかの分岐を繰り返していると、やがて小さな村に辿り着くのだった。
婆「おやおや、馬車を見るなんて何十年ぶりかしらね」
辺境の地において、馬車は良くも悪くも目立つようだった。一行を最初に見つけたのは、村の一介の老婆であった。
一行は村と人を見つけるとホッと安堵したが、しかしすぐに心には緊張が戻った。
ア「隣の国から来た、と自己紹介して大丈夫なんだろうか・・・?」アミンは胸のうちを素直に老婆にぶつけた。この穏やかななりの老婆なら、どうにかなるだろうと期待を込めて。
婆「ほほほ。部外者やならず者を拒むだろうと、まぁ不安になるじゃろね」
老婆は察しが良かった。
ミ「わしはミレーユ。ここは年寄りばかりの辺鄙な村じゃよ。
余所者を怖がる者もおらんでもないがね。みーんな年寄り。撃退するちからもない」
ここで刀を研いではいけないのだな。と皆は察した。
べ「宿屋なんぞはありますか?」ベロニカは尋ねた。一行はまず、ゆっくり休みたかった。
ミ「宿屋はない」
一行「はぁ・・・」まだ歩かなければならないのか、の溜息だ。
ミ「しかし、寝床ならある」
ミレーユは一行を、自分の家に招き入れた。
ミ「この村に宿屋なんぞないがね。旅人を泊めてやることはできる。
ひぃ、ふぅ、みぃ、5人もおるのか?わしの家にそんなに寝床はないが、ちょっと待っとくれ。隣の家を整える」
甲斐甲斐しい婆さんであるらしかった。
宿屋はなく、店もないが、家は幾つか点在していた。そのうちの幾つかは家主のいないもぬけの殻だ。
ゆ「この村やこの国のことを、教えてください」
一行は荷を下ろすと、まずはミレーユに情報を貰う必要があった。
居間で茶を出しながら、ミレーユはゆっくりと話しはじめた。
ミ「どこから話せばよいものやら。
・・・まず、この国は宗教に篤い国。ギュイオンヌ大聖堂を中心に、首都は栄えた。
神や宗教に救われてきた、そう考える者は多かった。
が、そうでもない、と考える者もおった」
ア「と言うと?」
ミ「ギュイオンヌに魔物はあまり出ない。
しかし、動物や虫には、毒やマヒをもたらす奇形の多い土地柄じゃった。
毒、マヒ、混乱、呪い・・・こうしたものの治癒は、教会の司祭が得意とした」
ゆ「だから、教会に救われてきた、と」
ミ「じゃが、教会はその治癒のために、多額の金をせがんだ。
野良仕事に励めば、10日に1度は虫の毒に冒される。
そのたんびに教会で治癒してもらう。そのたんびにお金がかかる。
気がついてみれば、毒の治療の費用を稼ぐために野良仕事をしているような気になってくる」
ベ「そんなに高額なのですか?」
ミ「なぁに、たかだか100ゴールドばかし。
はした金じゃ。・・・旅人からすれば、そう思うじゃろう。
しかし、この国に住む庶民からすれば、それば大金じゃった」
ゆ「重すぎる税金と同じ・・・!」
ミ「そう。
しかし国や司祭に歯向かうお国柄でもない。
民のうちの幾らかは、平和的な解決方法を考えた。
『毒やマヒを治す薬草を、自ら調合すればよいじゃないか』とな」
な「あったまいい~!」
ミ「はっはっは。そうじゃなぁ。
しかし、なぜか・・・
なぜか、薬草の調合に成功し、仲間を治癒しようとする者は、なぜか早死にした」
5人「!!!」
ミ「なぜか、な。理由はわからん」
ベ「教会権力に抹殺されたのか!?」
ミ「なぜか、わからん。
じゃから、自ら薬草を調合したがる者はやがて、共に国を捨て、ここに村を構えた。
数十年も前の話じゃよ。
この村の民はそのときの生き残り。じゃから老人ばかり住んどるし、空き家も目立つ」
ベ「国の権力から、逃れてきた者たち・・・!」
ミ「そう。そういうことじゃ。
この村に訪れたおぬしらは、『ギュイオンヌのことを知らない』と言った。
つまり余所の国の者。国境が厚いはずのカルベローナから来た者。
何か訳ありじゃろ。
つまり、
わしらと似た事情を、持っておるんじゃろなぁ。はっはっは」
察しのいい、頭のいい、そして懐の深い老婆であった。
ベ「・・・ひっく、・・・ぐじゅぐじゅ」
ベロニカは涙を流しはじめた。老婆が多くを語らずとも、老婆の深い慈愛に感動するのだった。
ミ「おやおや何を泣いておる!」
べ「ごめんなさい。その・・・何を言えばいいかもわかりません」
ミ「そうかそうか」ミレーユはベロニカの頭を優しくなでた。
ア「ねぇお婆さん。僕に毒消しの薬草の調合を教えてくれませんか?」
ミ「ほっほっほ。良いがのう。
その代わり・・・
隣の家の掃除を手伝っとくれ」