エピソード54 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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更新日:6月16日
エピソード54
床には乱雑に織物が敷いてある。2人はそこに腰を下ろした。
パイプを吸っていた老人がテントの中に戻ってきた。
老「剣を持っとる。冒険者だな?」
デ「あぁ」
老「頼みがある。
神を、倒してはもらえんか?」
れ・デ「え!?」
老人は無表情にゆっくりと言った。
呆けているのか、寝ぼけているのか、その発言だけでは要領を得ない。
老「あとで娘が話すだろう」
数十分の後、ワイズは少女を伴って戻ってきた。
ワイズは手に肉を持ち、少女はフルーツを抱えている。
ワ「娘のセーニャだ」

セ「こ、こんにちは。旅の方」
れ「お世話になります。私はれい。こっちはデイジー」
セーニャの年頃は、自分より3つほど下かなとれいは思った。
デ「神を倒せ、とはどういうことだ?」
ワ「あ?」
デ「爺さんがそんなことを言ったぞ。
魔王が襲ってくるのか?」
ワ「あぁ、爺さんそれを話したのか。
魔王ではない。山の神を名乗る者が、わしらの悩みの種なのだ」
デ「詳しく聞かせろ」
ワ「さっき少し話した、気分屋の酋長のことだが。
酋長は霊感を操る。儀式を行うと神と繋がることがある。
神は里に天啓をもたらすばかりか、時々この里にやってくる」
れ「神様が!?」
ワ「あぁ。わしらも姿を見ることがある。
魔物のようにも見えるが・・・本人も酋長も神だと言う」
デ「魔物なんじゃないか?」
ワ「しかし、日照りなどで里が窮地に陥るとき、その神はわしらに食料を与えてくれたりもする。
肉もトウモロコシもフルーツも持ってくる。わしらはそれに助けられてきた面もある」
れ「農業は、しないのですか?」
ワ「アライゾの民は農業はしない。
食べ物は大地の恵み。自然に任せよという教えが昔からある」
デ「それで働きもせず葉巻ばかり吸っているのか」
ワ「大地をひっかいては失礼だ」
デ「あっそう」
ワ「とにかく我々は、山の神からの恩恵に生かされてきた」
デ「だったらいいじゃないか」
ワ「しかし・・・
山の神は、天啓や食料、救済と引き換えに、年に1人ずつ生贄(いけにえ)を要求してくる」
れ・デ「いけにえ!?」
ワ「若い娘だ」
デ「その娘はどうなる!」
ワ「神に連れ去られた後のことはわからない。
1つだけ言えるのは、二度と里に戻って来ることはない」
れ「ひどい・・・!」
ワ「生贄という制度はいかがなものなのか・・・時々民も考える。
しかし他の民にも生贄という制度のあるところがあると聞くし、わしらは神に生かされている。
結局里は、神には逆らわず生贄を捧げてきた」
セ「わたし、生贄なんて怖い!!」セーニャはワイズに泣きついた。
ワ「見てのとおりだ。
自分の娘が次の生贄候補となったとき、わしはこのしきたりを受け入れることが出来なくなった」
老「神を、倒してはくれんか」
セーニャはしくしくと泣いている。
デ「その神をオレが倒してやる。
ただし、条件がある」
ワ「何でしょうか?大金や財宝を積むことは困難ですぞ」
デ「そんな話じゃない。
おまえたち、農業をする覚悟はあるか?」
ワ「農業?それは神への冒涜だ」
デ「しかしおまえらに農業をさせない神は、生贄を求める悪魔かもしれないのだろう?
なぜそいつの言うことを聞く?
農業をせずに、山の神に食料を貰う暮らしが楽だからだ。それが本心だろう。
そう考えているうちはずっと悪魔に付け込まれる。
日照りが来ようが神に命乞いをせずに済むように、里は農業の苦労を背負うべきだ。
その覚悟がないなら、ここでオレが山の神を倒しても無意味」
ワ「・・・・・・。
わかった。前向きに検討する」
セーニャはもう一度、ワイズにぎゅっと抱き着いて顔をうずめた。