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エピソード59 『天空の城』

エピソード59


一行は一旦里に戻って休息を挟んでから、地球のへそとやらに赴くことにした。

どこに行くのか、地球のへそが何なのか、貝塚で何を見たのか・・・それらは里の者には言っていない。勇気と行動力のある者だけが知っていればよいことだろう。少なくとも今の段階は。色々騒がれても、止められても、着いてこられても困る。

貝塚に宝の地図の壁画があることを知っている者がいれば、貝塚から立て続けにどこかに行くと言えばそれを怪しんで然りだが、誰もそれに言及する者はいなかった。あの壁画は、少なくともこの里においては、完全に風化しているのだろう。

アライゾの中心にある地球のへそは、セーニャの里から割と近いほうであるようだったが、それでも野宿を要する旅となった。セーニャにとっては里の外で野宿をするのも初めてだ。まぁテントで眠るのとそう違いはないが。


やがて大きな半円の山が見えてきた。本当に大きい。

一体、これを登るということは可能なのだろうか?ロープなど張れば崖登りの要領で頂上を目指すことも不可能ではなさそうだが、もっとまともな登山道があるのではなかろうか。デイジーを先頭にして一行は、まずはこの半円の山をぐるっと一周してみた。

これといった変化もないまま半周をした。デイジーは上ばかりを見、れいは真ん中ばかりを見、そしてセーニャは足元ばかりを見て歩いた。


するとセーニャが何かを見つけた!

セ「これは何でしょう!」

石板だ。半円の山に忽然と、画用紙大ほどのサイズの石板がはめ込まれている。

文字が刻まれている。

セ「いち、に、さん。ひとつ・・・ひとつ・・・こなしていく・・のです」

デ「何だこれは。へその試練に関連するのか?それとも人生訓か?」

3人は辺りをキョロキョロ見渡す。

すると、石板の少し先、頭上3メートルほどの高さから、登山道が始まっているではないか!

れ「こんなのどうやって登るの?」

デ「不可能ではないが・・・」

デイジーはそう言うと、フック付きロープを取り出した。そしてひゅんひゅん回すと頭上に器用にくさびを打ち込む。

れ「そんなことまで得意なのね・・・!」

デ「問題は、セーニャに縄を登る腕力があるかだ」

セ「うぅ。やってみます!」


まずはれいが登った。れいにも縄登りが出来るかは怪しいところだったが、彼女はこの旅の最初の『吊り橋の試練』然り、それなりに腕力を鍛えてここまで来た。昔のれいには出来なかったかもしれないが、今なら何とかなる。ここではお姉さんである姿を見せなければならないので、れいはためらいも見せずに懸命に頑張った。

そして次にセーニャが挑む。

セ「えい!」セーニャは背伸びして頭上のロープを掴み、足を掛け体を引き上げるが、ずるっと落ちてしまう。

何度か挑むが上手くいかない・・・

れいは上から、自分の手袋を投げてやった。

セ「今度こそ!」セーニャは精いっぱいチカラを入れる。体が浮き上がる!

少し調子付くと、下からデイジーがセーニャの尻をぐいと押し上げた。それでまたセーニャの体が上がる。

デ「一手二手がんばれ!」

セ「はい!」

セーニャは自分の腕力と脚力で、一手、二手、懸命にロープを登る。

デイジーは今度はセーニャの足の裏を支え、そのままぐいと持ち上げる。

デ「れい、手を伸ばせ!そろそろ届くだろう!」

れ「はい!」れいは上から、懸命に手を伸ばす。

セーニャは死に物狂いでれいの手を掴もうとあがくが、まだ数十センチ届かない!

セ「あ、あ、あ・・・!」

デ「もう一手がんばれ!」

デイジーはセーニャに、その数十センチを自分の腕力で補うことを指令する!

セーニャは歯を食いしばり、全身を震わせながら懸垂をする。

セ「ぐ、ぐ、ぐ・・・!」

あともう少し!あともう少しだ!

ドシン!

しかし、セーニャの腕は力尽き、あえなく地面に落ちてしまった。腕のチカラだけで懸垂することは、出来ない者には無理がある。

3人「はぁ」

セ「だ、だめだわ・・・」セーニャは泣きそうになる。

れ「もう1回、がんばってみましょう?」

セ「でももうクタクタで・・・」

床にしゃがみこんだセーニャの目の高さに、なんともう1つ石板が見える。赤い砂がかぶりまくって目立たないが、あれが石板ならこれも石板ではとわかる。

セーニャは石板の文字を読んだ

セ「『できない』と・・・いわない・・・こと」

デ「はっはっは!だそうだ」

れいはセーニャに《ホイミ》を唱えた。セーニャの腕力と全身の筋力を回復してやった。

筋力の消耗のあとに《ホイミ》を使うと、筋力は少し増す。これは他でもなく、れいが旅立ちの日に体験してきたことだ。


もう一度同じことを試す。まずはれいが登りきり、そしてセーニャが登る。デイジーがセーニャの尻を押し上げる。

がんばれ!せめて1メートルは自分のチカラで自分を押し上げなければならないのだ!

ぐぐぐぐぐ・・・!

よし、さっきよりも肘が曲がる!

セ「い、いけた!」

デ「セーニャ!もう一歩だ!」

ぐぐぐぐ・・・

れ「もう少し!」れいは上から手を伸ばす!

ぐぐぐぐ・・・届いた!

れいがセーニャの手を掴み、勢いよくぐいと引き上げる。

セ「はぁ、はぁ、登れたわ・・・!」

デイジーはすぐ後を追う。

デ「よくがんばった」

セ「はぁ、はぁ、はぁ」

デ「別にオレが抱えて登ったってよかったんだがな。でも試練ってのはそういうものじゃないだろう」

れ「え?」

デ「試練が課されることには目的がある。形だけ達成しても意味がないんだ。オレやれいがどれだけ手助けしていいものかはよくわからん。ロープを掛ける程度のことは良いのだろう。あの壁画には2人の大人の引率があったからな」

れ「そうね」

デ「さぁ、登るぞ」

しかしへたれこんだセーニャの前にはまたも石板が見える。

セ「なにごと・・・も・・・こんき・・・が・・ひつ・・・ようです」

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