エピソード5 『天空の城』
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- 2024年11月1日
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エピソード5
早く眠れば早く目が覚める。
れいは、村人から色々声を掛けられるのも嫌だったので、まだ日が昇りきらないうちに家を出ることにした。
母レオナは、ローズの形見である《聖なるナイフ》をれいに手渡すと、
「村長さんに挨拶をしていきなさい」と、それだけ言った。
れいは「その通りだな」と思った。昨夜は泣いてしまって、ろくに感謝を告げていない気がする。
れいは朝露の匂いの中を、カリン村長の家まで歩いた。
れ「村長さん。
昨日はどうもありがとう。
そして、これまでどうもありがとうございました。
私は、とても良い村で育ちました!」
村長はニコニコと微笑んだ。
村「ようやく気付いたかぁ!
この村は、『素朴であり、自由であるべきだ』と思って舵取りしてきたつもりじゃよ。
愛には様々なカタチがある。それを感じとってくれたら嬉しいのう。
そうそう。
おぬし、冒険というのはどれくらいの規模を想定しておるのじゃ?
周辺の村を2、3周るのか?それとも、国を離れて見知らぬ世界を見るのか?」
れ「見知らぬ世界を、見たいです。
私では無謀でしょうか?」
村「いいや、そういうことを言いたいんじゃない。
国を離れたいんなら、王様の許可証が要るぞ。通行手形じゃ。
まずは王都を目指しなさい」
れ「わ、わかりました」
山を下ったところに、王都サントハイムがあるのだ。
サラン村を出ると、スライムが襲い掛かってきた!魔物さんも早起きなもんである。

れいは《聖なるナイフ》を構えると、落ち着いてスライムを仕留めた。
この世界において、村や町の外に出れば魔物に相対することは普通である。
そしてどこの町においても、その町周辺の魔物に抗戦する程度の戦闘能力を持った人が多かった。
稀に戦いたがらない者、弱い者もいる。女などには多い。すると一人では遠出が出来ない。れいは自立的な価値観を持っていたし、そう育てられてきたゆえ、少々の魔物なら対応することが出来る。
村を出るとき、大抵は誰か付き添いがいたものだった。父も母も、れいよりも戦闘能力が高い。同年代同士で遠出の必要があるなら強い友達を連れていくものだった。
しかし今はれい一人である。
風景はまだ見慣れたものだが、「一人で歩く」ということによってどことなくよそよそしく感じるのだった。
少しの緊張と、ためらい、言葉のわからぬ感情が胸のあたりに漂う。でも、それが「冒険」なのだ。
ちょっと怖いけど、でもこのドキドキに、憧れて私は出てきた!そう自分を奮い起こすのだった。
「王都を目指しなさい」と村長に言われた。
その通りにすべきだと思って村から道を下ってきたが、何か妙な違和感がする。何かを忘れているような気がする。
れいは立ち止まって考えた。
れ「あ、吊り橋の試練だわ!」
そう。冒険に出るなら、最初に赴くべき場所は『吊り橋の試練』であるような気がする。
吊り橋の試練とは何だ?
村長は、「ワシはこの村の村長だから、民の思っていることはわかる」と言っていただろう。
勇者を排出したサランでは、男の子たちが度々、勇者の背中を追って旅立ちたがる。勇者の伝承を背負い、「勇者様のように」と言って聞かされたのだから、村人の多くが冒険に憧れるのは当然なのだ。
そして男の子たちが旅立ちを請うとき、「まずは『吊り橋の試練』を越えなさい」と村長に告げられる。
そこで見たものについては誰にも口外してはいけないことになっており、実際に試練に挑んだ者以外、何があるのかは知らない。しかし、「旅立つ者がまずそれをこなすべき」ということだけは、れいだって知っていた。
村長も両親もれいにそれを指示しなかったが、行ってみたほうが良い気がした。いいや、好奇心がくすぐられた、というほうが正しいのだろう。
男の子たちの聖域に私も踏み入れてしまって良いのだろうか?ハラハラする。