エピソード68 『天空の城』
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- 2024年7月21日
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エピソード68
そしてその割け谷の中間あたりに、関所があった。
ここからはハーメリアという国の領土になるらしい。
兵「こんなところを冒険するのか?珍しいな」と、サントハイムの国境よりも随分と呑気な兵士たちに出迎えられた。同じ国境でもこうも違うのか。国境兵士の顔の怖さは、治安に比例するのだろう。
荷馬車の女は話好きで、会話はどんどん盛り上がった。
デイジーは、伝説の武器を探してさすらっていることを告げた。
すると女は面白いことを言った。
女「この山の、こっち側の国のどっかに、大きな洞窟があるんだよ。いや神殿かな。
例のアイゼンって戦士が作った神殿なんだ。
『戦士の神殿』って呼ばれてて、すごい手強いらしいが、なんか戦士にとってのお宝が眠ってるらしいよ。
あんたの探し物もそこにあるんじゃないのか?」
デ「面白い話だな。
オレの目当ての品が洞窟の宝箱にあるとも思えないが・・・」
女「あんたの剣よりすごいのがあるかもしれないよ!ははは」
デ「その可能性はある」そして難易度の高いダンジョンなんて、刺激的だ。
デ「れい、ここらでお別れしよう。
オレはその洞窟を探す。
れいには荷が重いと思われる」
れ「そう、ね・・・」
れいは寂しそうに同意した。
デ「次の町で、別れることとしよう」
割け谷を抜けた。視界が大きく開けた。地平線の向こうまでまた荒野が続いている。
れ「良かった。しばらく町は見えないみたい」
女「いや、もう着いちまったよ」
そう言うと、あごで左手側の背後を指した。
え!?二人は振り返る。
すると、山肌に張り付く大きな町があるのだった!
大きいが街ではなく町だ。小さな家ばかりが密集している。
しかしその家々はとてもカラフルに着色され、ユニークな景観を作っていた。
女はその町のたもとに馬車を停めた。
急な別れに、れいは戸惑う。
しかし抵抗すべきでないことだけはわかっていた。
わがままを言ってはいけない。着いていっても絶対に足手まといになる。
寂しさの涙を懸命に押し殺す。しかし言葉も出ない。
デイジーが先手を取った。
デ「またどこかで会おう」デイジーは微笑みながら、れいに握手を求めた。
れ「えぇ。きっと。実際にこの世界のどこかで再会するなんて天文学的な確率だけど、『またあなたに会いたい』って気持ちは確かなものだわ。私にとっても」
デ「いいや。そうでもないんだよ」
れ「え?」
デ「なぜか旅人たちは、偶然ぱったりと運命的な再会を果たしたりする。
オレは神など信じちゃいないが、旅の神様みたいのはいるような気がしている。
旅人と旅人を再会させる、妙なチカラがあるように思える。
ふふ。じゃぁな」
それだけ言うとデイジーは、一度も振り返らずに歩いて行ってしまった。
れいはしばらく、デイジーの後ろ姿を眺めていた。