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第32節 ~モモの正義~ 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 7分

第32節 ~モモの正義~

モモの過去 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
モモ

場面は変わって、それは3年ほど前のこと。


モモは一人、世界の僻地をさすらっていた。

モ「聞いてくれよ長老さん!アンタらの村を助けたいから言ってんだ!

 つまりこういうことなんだよ!

 龍ってのは善なヤツも悪いヤツも両方いるんだ!」

長「我々の前に現れる龍は神だ!我らを救い給う」

モ「善人のように威張ってるだけの悪者なんだよ!

 民を映像の快楽に依存させようとしてんだ!」

長「この国は太古の昔から龍と共にあった。

 だから国旗にすら龍の姿を描いてきた。龍が神だからだよ」

モ「あたしは山の中で太古の壁画を見たんだよ!

 昔、龍はこの星にたくさんいたんだ。

 でも人間が過ちばかり犯すから、山が怒って大きな火山の噴火が起きた。龍たちはその巻き添えを食らって絶滅していった・・・。

 龍の半分は怒った。『人間を成敗してやろう!』ってね。

 龍の半分は愛を貫いた。『人間を光に導いてやろう』ってね。

 惑わしながら人間に嫌がらせをしたい、そんな龍もいるんだよ!それに善だった龍が悪に堕ちていったりもするんだ!」

長「それで・・・そなたは色仕掛けでこの村を惑わして嫌がらせをする、悪い龍というわけだな?さぁもう立ち去れ!さもなくば火山に投げ落とすぞ!」

モ「あたしが龍なんて一言も言ってないよ!」

長「では長老に口を挟む筋合がどこにあるというのだ!」

モ「だから村を助けようとしてんだよ!」

長「兵士よ。この女を地下牢にぶち込んでおけ!食を与えるな。飢え死にの刑だ」

モ「そんな!!」

兵「黙れ!言うことを聞くんだ!」

モモは兵士に捉えられ、牢獄へとぶち込まれてしまった。


ガチャン。

兵「今生の別れだ。さらば」

モ「・・・・・・」

兵士は去っていった。

モ「ほんとに行っちまいやがった。

 臭ぇな。

 こんなところで死ぬのか。こんな暗くてつまらない場所で。こんなところで人生が終わるのか・・・」

モモの頬を大粒の悔し涙が流れた。

モ「いいんだ・・・。どうせいつ終わってもかまわない人生」

モモは膝にうずくまりながら、久々にしくしくと泣いた。なぜだ?自分は正しいことをしたはずなのに!しくしくと泣いた。20分も泣いていた。


泣き疲れ、眠気を催した頃・・・モモの脳裏に語り掛ける天女の声があった。

天「モモ。モモ。愛ありあまる天使よ。まだ死ぬときではありません」

モ「・・・は!またあの声だ!

 アンタも神だか悪だかわからない奴だな!」

天「だからあれほど言ったでしょう。争いごとには手を出すなと。

 あなたは恋に生きたかった人生のはず。

 人を助けたいのも良い、人を愛したいのも良い。しかし相手を慎重に見極めなさい。その識別力を磨きなさい。旅はその目を磨くことにも役立ちます。たくさんの人と出会えばよい、語ればよい。あなたの胸の内を見せるべきか、その都度必死に見極めなさい」

モ「でも!」

天「まだ言うのですか。頑固な子です。やがて愛すべき人に出会うまでには、その頑固さは克服しておきなさいね」

モ「頑固ではない!正義だ!」

天「あなたは戦わなくてよいと言っているのに・・・。

 はぁ、『可愛い天使になりたい』と言って転生に出たのに・・・『女神になりたい』と望んでしまうのですね。

 よいでしょう。それならあなたに魔法を授けます。

 イシスの神殿を目指しなさい。そこであなたは、桜色の秘伝書を見つけるでしょう。

 あなたの美は、すべての悪を無効化するでしょう。

 永遠に生きなさい。人を導き、癒すために」

モ「イシスがなんだってんだ!こんな暗闇じゃ何もできやしないさ!」

しかし天女はもう何も答えなかった。

モ「消えやがった!いつも一方的だ!」


しかし・・・!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

大地が音を立てて揺れはじめた!

モ「なんだこれは!?水攻めでもするってのか!?」

モモは、長老や兵士が自分に何か懲罰を与えようと大きな力を動かしたのかと思った。

しかし、

「うわー!」

「きゃー!」

「逃げるぞー!」

地上から人々が慌て逃げ惑う声が聞こえる。

モ「なんだ?あたしだけじゃないのか!?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

大地はさらに大きく揺れている!


ガタン!

バターン!

なんと牢屋の蝶番(ちょうつがい)が、地震の衝撃ではずれ、鉄の扉が開いてしまった!


モ「で、出られる・・・!!!」

モモは考えるよりも早く牢屋を飛び出した!建物が崩落を始めている!階段を上り地上に出る!

人々が逃げ惑っている!いいや、大きな揺れや崩落物に耐えきれず、多くは転んだが最後立ち上がれない。誰もモモのことなど気にしてはいない!

踊りで鍛えた強靭なモモの脚は、大きな揺れにも負けず真っすぐに地面を蹴る!崩落物を避ける!人の死体を跳び越える!


兵「囚人が逃げたぞ!」しかし兵士の一人がモモの脱走に気付いた!

兵「おぉあの色っぽい女だ!長老は見てないのか?とっ捕まえろ!」この期に及んでモモを追う兵士がいる!

グラグラ!

大きな揺れにモモの脚はよろけ、転んでしまう!

モ「やばい!」

兵「捕まえろ!」

モ「どうする!」モモは辺りを見回す。倒れて動かない兵士の横に剣が転がっている。

モ「大剣なんて無理だ!」モモはその剣を振るえそうにもない!

すると!


天「拾いなさい!その大きな剣を!」


モ「なんだって!」しかしモモは声の言うとおりに、這いつくばって死に物狂いで剣を掴み取った!

モ「うぐぐ、重い!」

兵士たちが迫ってくる!

モ「もう逃げられない!」


天「回りなさい!」


モ「なに!?」


天「その剣を両手で掴み、勢いよく回りなさい!」


モ「馬鹿言うな!」

モモは口では反攻しながらも、しかし両手で剣を持ち上げ、そして体をグルグルと回転させた!

モ「うぉーーーーーー!!!!!」

重たい剣は、しかし回りはじめれば今度は反動を生みだし、モモの体を勢いよく回す!そして回る体は大剣を、最悪の暴れ馬のように、太刀筋も読めぬ永久輪廻の大技に化かす!!

天「それが《剣の舞》!大昔にあなたが自分で編み出した技です!

 あなたなら5分でも回っていられる!」

ザシュ!

ザシュ!

モモの剣が兵士を斬りつける!血が吹き出る!

モ「うぅ!」モモは回りながら垣間見える兵士の赤い血に顔をゆがめる!人と戦いたくはない!モモは自分の残酷さが嫌になって回転を止めようとする。

が・・・


天「目を閉じなさい!回り続けなさい!

 血を見ないこと!

 敵を見ないこと!

 悪夢を見ないこと!

 生き延びる術だけを考えなさい!」


ザシュ!

ブシュ!


モモは声の言うとおりに目を閉じた!もう何も考えない!!

そして回り続ける!回りながらもどちらかの方角へと走り駆ける!!


ザシュ!

ブシュ!


まだ目を閉じたまま回っている。

ゴゴゴゴゴと地鳴りは続いているが、建物の中のような音の反響はなくなった。剣が何かを斬りつける鈍い音も手ごたえもなくなった。

モ「うぉーーーー!」最後はハンマー投げの選手のように、遠心力で剣を遠くに放り投げると、そのまま仰向けに地面に倒れ込んだ。

モ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・

 逃げ切った・・・!!!」 






またある日のこと。

天「孤独に強くなりなさい。おしゃべりが好きでもよい。孤独にも強くなりなさい。

 そうでないと、低俗な人にばかり話しかけたくなってしまうから。

 酒を飲む人に気を許すのはもうやめなさい。


またある日のこと。

天「真の美しさとは何か?どこから見ても美しくありなさい。

 愛する人とは何をするのですか?裸であっても美しくありなさい。体の内側まで美しくありなさい。そのためには何の努力が必要ですか?」


またある日のこと。

天「強くありなさい。戦士のように。

 美しくありたいなら、強い必要もあります。タフである必要があります」


またある日のこと。

天「人を諭したいのですか?それなら歌を書きなさい」

モ「歌だって?歌なんて誰も聞き入れやしないじゃないか」

天「そうです。100人のうち99人は歌の言葉など聞いていはしません。あなたの美しい姿しか見ていない。あなたの美しい声しか聞いていない。しかし100人のうち1人は、あなたの歌の言葉を聞いています」

モ「100人のうちたった1人!?」

天「しかし新聞を読んで悪事を改める人は1000人に1人すらもいません。教科書を読んで人生を変えるひとは万人に1人すらもいません。法律を読んで心を暖かくする人など、億人に1人もいないのですから。

 100人のうちのたった1人のために、歌を歌いなさい」


またある日のこと。

天「もっと男を選びなさい。あなたが満足する男など100万人に1人しかないことが、まだわかりませんか?」

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