エピソード76 『天空の城』
- ・
- 2024年7月22日
- 読了時間: 5分
更新日:2024年9月17日
エピソード76
フズでの戦闘訓練は1日では終わらなかった。
なぜか?
セレンは、れいと別れて一人になったときのことも想定したからだ。彼は教会を離れて違う町に行きたいだけでない。その先を見据えている。次の町で暮らすかもしれないがまたさらにどこかにさすらうかもしれない。その瞳に映る世界の広さは、旅立ち前のれいによく似ていた。
れいは次の行動が移動でも戦闘訓練でも、どちらも問題がなかった。自分も、デイジーを失って一人でさすらっていけるように戦力アップしたい、しなければならない身だった。おんぶにだっこかと思ったセレンは防御能力が高く、知識もある。セレンから学ぶことも数多くあった。
セ「ところで、れいさんの職業は何なのですか?」
れ「私は、立派な魔法使いになることに憧れて村を出てきました」
セ「でもそんなに立派な剣を振り回しておられる?」
れ「一人旅の時間が長かったので。魔法を撃ちたい、覚えたいと思っても剣で戦わなければどうにもならないときが多かったので、自然と剣も覚えてしまいました。
魔法の師匠がいたわけでもないので、魔法が得意なわけでもないですし・・・」
セ「ふむ。突然変異ですね」
れ「それよりも、職業云々というのが私にとってもよくわからないんです。職業が必要なんですか?」
セ「冒険者は、各々の長所や個性を『職業』というかたちで自認します。
魔王を倒した冒険者の一行が、『勇者』『戦士』『僧侶』『魔法使い』という構成であったため、そのどれかを志したり名乗ったりする人が多いです。
『僧侶』というのは元々は神に仕える者の意味ですが、回復魔法に長けた者が『僧侶』と呼ばれます。専門用語的なニュアンスがあり、それを知らない人からすると混乱するかもしれませんね。
いや、勇者の一行にいたのは『魔法使い』ではなく『賢者』だった、という話もあります」
れ「賢者?」
セ「はい。これも専門用語的なニュアンスがありますが・・・
魔法使いの魔法と僧侶の魔法、両方ともを得意とする魔法のエキスパートを『賢者』といいます。
『賢者』は希望するだけでは成れぬもので、何か、悟りを開くようなことが必要らしいです。『勇者』と並んで、伝説的な、憧れられることの多い職業です。
あ、『賢者』という言葉はもう1つ、ややこしい面があります。
人のいないところに籠って冒険者たちに知恵を語る仙人のような人のことも、『賢者』と呼んだりします。彼が魔法のエキスパートであるとはかぎりません」
れ「それで、勇者は・・・」
セ「そう。『勇者』は説明の難しい職業です。
未だ明確な定義がありません。
魔王を討伐して世界を救うような勇者には、共通して見られる特徴があります。
それは、剣術も魔法も得意とするということ。魔法は、攻撃魔法も回復魔法も使いこなします。剣術も戦士並みにこなします。そして雷(いかずち)で制裁を喰らわす伝説級の魔法が使えたりします。戦闘能力が万能であり、そのうえチームを引っ張るリーダーシップがあります。
れ「すごい・・・!」
セ「そう。『勇者』はすごいです!
それゆえに多くの人が憧れます。しかし憧れるゆえに、『オレは勇者だ』と名乗ってチンピラのようなことをする輩も非常に大勢います!多少の人助けはするのでしょうが、勇者とは少し違うような・・・」
れ「雷の魔法はどうやったら習得できるのですか?」
セ「これにも諸説あります。
勇者の素質を生まれ持った人だけが、戦闘を重ねる中で自然と覚える、という説。
冒険をする中で勇者の格を見せた者が、精霊ルビス様から授けられる、という説。
誰であれ努力をすれば身に着けられる、という説。
父親が勇者であったとき、その子が雷の魔法の使い手となるケースは多いようです」
れ「生業としての職業と、冒険者としての職業は、別物だってことですね」
セ「一致しているケースもあるでしょうが、別の概念と思っておくとよいでしょう。
生業は木こりで、冒険者としては戦士を担う、そういうこともあります。
そして他にも冒険者としての職業はありますよ。
『武闘家』、『パラディン』、『商人』、『盗賊』、珍しいところとしては、『羊飼い』『吟遊詩人』『海賊』・・・
時代における流行があったり、個人が独自に確立していくこともあります」
れ「私が、自分を『魔法使い』だと名乗れば、魔法使いの魔法が使えるようになるのでしょうか?」
セ「いえ、そうとは言いきれないでしょう。
魔法使いたちは共通して覚える魔法の傾向がありますが、皆同じでもありません。
最終的には『どういう魔法に興味があるか』『どういう概念に精通するか』です。ですから魔法の勉強は重要ですし、化学や様々なことも知っていたほうが有利です。また、生まれ持った資質の問題もありますね」
れいはセレンとの会話の中から、イムルで買った魔法の本に書かれていないことも吸収することが出来た。書いてあったことを、より深く理解することが出来た。
そしてセレンと共にフズで戦闘訓練をする中で、さらに《メラミ》と《フバーハ》を習得した。
《メラミ》は《メラ》系の中級呪文だ。《メラ》の数倍の威力がある!てつのさそり一体を一撃で倒すことが出来る。
《フバーハ》は敵からの炎や吹雪のダメージを軽減する防御魔法。セレンが使っていたものだ。通常は冒険の終盤になってから覚える、なかなか高等な魔法である。
れいは新たに習得した魔法を放つ喜びに浸りながら、しっかりと剣を振り続けた。剣を軽々と、そして長時間振り続ける腕力が非常に重要だということを、忘れてはいけない。
特にセレンは、この数日ですさまじく戦闘能力を上げた。これまであまり実践経験が無かったのだから、飛躍はすごい。しかし、彼は自分が攻撃の主力になれないことは目に見えていたので、いかにれいをサポートするかを考えて体を鍛えた。特に敏捷性が増し、開口一番で《スクルト》や《マジックバリア》で防御できるようになってきた。