エピソード91 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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更新日:6月16日
エピソード91
一旦の解散の後、用心棒に志願した者たちは再び城に集められた。
大臣に化けたボストロールを討伐しただけでなく、それなりに皆苦労を被っているゆえ、皆に褒美や労いを与えようと王は考えた。
そして、今回の依頼の目玉である《いかずちの杖》の行方だ。
王「《いかずちの杖》を褒美にしようと考えたのは大臣だ。それは王が引き継がねばならないだろう。
しかしこれが1本しかないことは我れにもどうしようもない。
やはりれいかサーヤのどちらかにしか、与えることが出来ない。
活躍度に鑑みるのが妥当かとは思うが・・・」
れ「私は、譲ってもかまいません」もう褒美だとか杖とか、どうでもよくなってきていた。人と争ってまで何かを欲しくはない。
サ「えぇ、本当!?」

王「ではサーヤよ、そなたがこれを持っていくか」
サ「・・・・・・。
でも、これはあなたが持っていきなさいよ」
れ「えぇ、どうして?」
サ「あなたが最も活躍したからよ。戦闘でも頭脳でも。
それをここらの住民はみんな知ってるわ。
それなのに私がこの杖を振り回してたらどう思うのよ?
気まずいったらありゃしないわ」
王「はっはっは。伝説級の武具は、持ち主を選ぶと言われておるが。こういうことなのだろうかな。
我が城に伝わっているだけでもこれだけの大魔法使いが手にとっておる。
ムーンブルクの王女、アリアハンのリズ、サランのローズ・・・。
おっと、話が反れた。サーヤには別の褒美を与えよう」
サ「どうもありがとうございます」
王「して、れいよ。
そなたには、綻んでしまったその《風のローブ》の新しいものも与えよう」
れ「いいえ結構です。それよりも、お裁縫道具を貸してください。
私は偉大な祖母に・・・
お裁縫の仕方を習って育ったのです」
夜は会食が設けられた。
志願者だけでなくその仲間たち、城の兵、数十名がパーティーテーブルにずらりと並ぶ。
れいは仲間が居らず孤独なので、端の席にひっそりと座った。
食事が一通り済むと酒が入り始める。各々は席替えをはじめ、自由に歓談を交わすのだった。
すると、れいと《いかずちの杖》を取りあった例のサーヤが、隣の席にやってきた。
サ「乾杯」れいにグラスを差し出す。
れ「あ、どうも。私はお酒が苦手なんです」
サ「そう。形だけでいいのよ。グラスをチンとやったら気分がいいものなの」
れ「では、乾杯」れいはジュースの入ったグラスで、改めてサーヤのグラスに口づけをした。
何を話しに来たのだろう。どちらかと言えばサーヤのことは苦手である。
サ「ねぇ、あなた。
あなた、ちょっとズルをしたわ」
れ「え?」れいは冷や汗をかく。
サ「だってあなた、戦士じゃなくて魔法使いなんじゃないの?」
ギクっ!
れ「た、たしかに、戦士というより魔法使いに憧れて旅をしています」
サ「それなのに戦士の手合わせに出たなんて、ちょっとズルな気がするけど」
れ「そうかもしれません・・・。
やっぱり《いかずちの杖》はサーヤさんにあげます」
サ「いや、そこはいいのよ」
れ「え?」この人は何が言いたいのか。よくわからない。
サ「あなた、頭が良かったわ。
もし魔法使いと手合わせしてても、知恵で勝ったんじゃないかと思うの。
それに、大臣の正体を見抜いたり城の王位継承問題にまでズバッと口出ししたりしたのは、いずれにせよあなただけだったのよ。
だから敢闘賞はあなたで間違いない」
歯に衣着せぬがれいを嫌っているわけでない。ようだ。どことなくデイジーに似ている。
れ「どうも」れいはサーヤの顔も見れずはにかむ。
サ「うふふ。そう警戒しないでよ。雑談をしにきただけなの。
ねぇ、あなた、師匠は誰なの?」
れ「師匠?」
サ「魔法使いは大抵、最初は師匠の元で学ぶものでしょ」
れ「師匠は・・・いません」
サ「いないの?自己流なの?」
れ「強いて言えば・・・デイジーかな」
サ「デイジー?そんな魔法使い聞いたことないわ」
れ「デイジーは魔法使いじゃなくて、とっても強い女戦士です」
サ「なるほど、うふふ。あなたの師匠だわ」
れ「デイジーを知っているの?」
サ「知らないわよ。そうじゃなくて。
真面目な子が普通じゃない育てられ方をしたら、強くなるものよ」