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CHAPTER 18

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月2日
  • 読了時間: 3分

CHAPTER 18


充分な休息を挟んで、一行は出発した。

マンドリルは倒せるようになったが、今度は巨大な食虫植物のようなマンイーターがこちらの目をくらまして攪乱してきたり、ガストという実態のない雲のような魔物は《マホトーン》で呪文を封じてきたりするのだった。武器が強いだけでは歯が立たない。様々な絡め手を加えながら、チームワークで乗り切っていく。

時には辺境の教会で休み、時には野営を張り、長い旅は続いた。「世界は広いな」と、それぞれに思うのだった。


王女に野宿など出来るのか?とローレやサマルは心配したが、「私は泥んこ遊びがしたかったと言ったでしょ?」と彼女は気丈に言うのだった。

しかし、憧れと実際は違う。実際には毎夜豪華なベッドにくるまって暮らしてきた彼女であった。寝込みを虫に襲われるなど想像にも及ばないことだったが、困難に対して声にも出さず耐え忍ぶ精神性が、彼女にはあった。そして、野宿や汗だくの旅にミユキが愚痴も言わずに耐えているのを見て、自分も奮起せねばと思うのだった。そうしているうちに、彼女も耐性を身に付けていった。


ある日の野営の晩。男二人は早々に眠ってしまった。

ムーンとミユキはシーツにくるまりながら、ひそひそと話すのであった。

ム「私はあなたのことも尊敬するわ、ミユキ!」

ミ「え!どうしてですか!?」

ム「あなたがとてもたくましいから。たくましいのに、可愛らしいから」

ミ「どういうことでしょう?」

ム「王宮仕えとして育ったなら礼儀があるのはわかる。でもあなたの物腰は根から柔らかく、そして可愛らしいんだもの。まるで淑女のように成熟していて、でも少女のようにあどけないでしょう?私はそんな女性を見たことがないわ」

ミ「あはは。侍女として培ったものもありますが、転生前の日本という国で培った礼儀の影響もあるのかもしれませんわ。他の女性たちにないというのなら」

ム「その少女のような可愛らしさも?」

ミ「わかりません。でもきっとそうかな。

 いつまでも少女でありたいと、皆思っているような国でした」

ム「それなのに!」

ミ「はい」

ム「それなのに、粗野な野営を苦にしないでしょう?それに、一日中歩き続けても弱音を吐かないわ」

ミ「でも私は戦っておりませんから。ハハハ」

ム「そういう問題ではないと思うの。あなたはタフだわ。まるで戦士のように」

ミ「えー!戦士みたいって言われても、うれしくない…(泣)」

ム「そうよ!中身は戦士みたいで、でも外側も口調も可愛らしい少女のよう。マナーだけが早熟したお姫様のよう。こんな不思議なレディっているかしら?」

ミ「どうでしょうか…」

ム「転生がどうのというよりも、そんなあなたのギャップというか、両極的な人間性がフシギで仕方ないわ」

ミ「はぁ」

ム「ごめんね。これは褒め言葉なの」

言葉にならなかったが、ミユキは深く安堵したし、嬉しかった。

女性の仲間を得るのは嬉しいが、女同士のほうがやりにくいという事実があることを彼女は痛感している。女だからといって、ミユキを理解できない人間は星の数ほどいた。しかし、世界で最も麗しいかと思えるムーンブルクの王女は、「ミユキを尊敬する」と言ったのだ。ミユキは安堵した。

嬉しいミユキはその晩なかなか眠れず、ずっと満天の星空を眺めていた。



『転生したらローレシアのメイドさんだった件』

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