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episode57 『王と悟り』

2 日前
読了時間: 5分

episode57


娘「もぉ~お母さんまた若い人口説いてんの!」

二十歳かその手前か、年頃の女の子が現れた。カルティエの娘だろう。エプロンを着けながらブツブツ言っている。

カ「いいじゃないか!

 イイ男ってのは自分からいかないと射止めらんないんだよ!」

娘「いい年して目キラキラさせないでよ」

ソ「旦那さんがいるんですよね?」

カ「まぁね。でもさ、旦那なんて『キープ』にすぎないだろ?」

ソ「キープ?」

カ「そうだよ。みんな孤独になるのが寂しいからとりあえず恋人作んのさ。大好きってわけでもないが不安が埋まるから付き合うんだよ。旦那はあたしの『キープ君』で、あたしは旦那の『キープちゃん』さ。もっとイイ男いたらヨロシクやんのさ」

ソ「ひどいこと言いますね!」悪気もなさそうに。

カ「みんな同んなじだよ。結婚なんて醒めたもんさ。旦那も同んなじだしね」

ソ「まぁそうかもしれないけど・・・」

娘「もう。そういうこと娘の前で言わないでくれる!」

カ「あんたは違うよ。女にでもババァにも誰にでも話しかけられんだからさ。そういう奴は寂しくならないんだろうさ」

娘「そうよ私は孤独になんか負けないわ」

この母娘は似ているのか、似ていないのか。


カ「あんたさ、『旅してる』なんて女に言わないほうがいいよ?」

ソ「どうしてですか?」

カ「モテなくなっちまうからさ。

 女ってのは、いくらイケメンでも優しくても、旅してる男なんて選ばないもんさ」

ソ「あははは、恋人探しの旅じゃありませんよ」

カ「そうは言ったってそろそろ娘の一人は欲しいだろ?」

ソ「そうかもしれないけど、それは旅に飽きてからかなぁ」

すると娘が横から口を挟んだ。

娘「私は旅人でもいいんだけどなぁ~?ママが長期の休みをくれるんならさ!」

少女はソロのテーブルに、頼んでもいないジュースを差し出した。

カ「おぉー、あんたこの男に着いてって射止めておいでよ!

 そしたらあたしも毎日この子とデート出来るってもんじゃないか」

ソ「あっはっはっは!」

たくましいもんだ。社会がどうであれ。

カ「ところであんた、皿3つ同時に運べるかい?」

ソ「え?」

娘「もぉ、お母さん!」



『王と悟り』 リンガイア
リンガイア 挿絵 by 生成AI

改めて街を眺める。

短剣を腰に差す者が多いだけでなく、建物の様子が山の向こうとは異なる。

四角い大きな箱がどかっと置かれただけのような、そんなシンプルな家の造りをしている。

壁の色はどれも薄茶色で白いペンキで装飾が施されている。どこの国にも見たことがない建築文化だ。こういうのが面白い。

そして、どれだけ日に焼けたかでその茶色や白が異なってくる。

そうだ。この国は少々暑い。

ソロは、これからセントベレスの山脈に上るという行商人に、《毛皮のマント》をあげてしまった。村のよろず屋に並び、誰かが買って旅をするのだろう。そういう連なりを想像するのも楽しい。



安宿を探すと、古い建物が密集するエリアにあった。街の中心地と言えるが、建物が古いゆえに安いようだ。通された部屋には窮屈にベッドが並んでいる。窓があるが、開けると隣のビルの壁である。景色もへったくれもない。


居間に出よう、ソロは考えた。もう少し足を延ばせる共有空間があるはずだ。

廊下を歩いていると笑い声がする。その先へ行ってみると、やはり広い共有リビングがあった。

「わははははは!」

4人の男たちがテーブルを囲んでトランプゲームをしている。

男「おぉ、見ない顔だな!しかも遠くの国のヤツじゃないのか?」傷跡だらけの威勢のいい男が、愛想よくソロに話し掛けた。

ソ「えぇ、カレンって国から来たんです」

男「はっはっは!知らねぇな。

 どうだい?一緒にトランプやってけよ」

ソ「えぇ」ソロはなんとなく、その輪に加わってみることにした。

男「いいか?同じ数字が揃ったら、それを手元から切っていくんだ。簡単なルールさ」

ソロはカードゲームに参加した。

男「一番負けたら10ゴールド没収だぞ?」

ソ「えぇ!」賭けトランプか、とソロは眉をひそめたが、少々乗ってみることにした。

ソ「30ゴールド。これ以上は使いませんからね!」ソロは軍資金を30ゴールドと決め、テーブルの前にもう置いた。

男「うひひひ。オレのクイーンちゃんの相棒を持ってるのは誰だ!?

 う~~~~ん、これだ!

 ちぇ!違うじゃねぇか」

ソ「あっはっは!」ソロは人が好きだが、1人や2人と語ることが好きで、グループの輪に入ることをあまり好まない。だからこそ入った。たまにはやってみよう、と。

ソ「今引いたのはクイーンじゃないってことですよね?そしてあなたは1枚クイーンを持っている。ふーむ、なるほど」

男「あ、バカ!オレはクイーンなんて持ってねぇぞ!」

「わははははは!」くだらないじゃれ合いも時には楽しい。

ゲームは進む。

男「よぉーし、こうだ!」

男は、クイーンにジョーカーのカードを添えて、場に切って上がった。

ソ「えぇ!そんなのあるの!?」

男は酔いしれる大根役者のように言った。

男「『神はこの歪(いびつ)な地球に、ジョーカーを1枚置いていった』ってな!

 わっはっはっは!」

ソ「なんですか、それ?」

男「古い言い伝えだよ。わっはっは!」

男はまた役者のように仰々しく言った。

男「『神はこの歪な地球に、ジョーカーを1枚置いていった。

 誰も困ることがないように。

 誰も寂しくないように。』」


トランプに興じると、益々暑くなってしまった。風通しの悪い寝室はとても寝苦しそうだ。店主に尋ねると、「じゃぁ屋上で寝たらいい」と言われた。

屋上に行ってみると、そこにも憩いのスペースがあり、ハンモックが5つ6つ並んでいるのだった。

「こっちのほうがいいや」とソロは思った。若干だが風もある。ハンモックに揺れながら夜を明かした。

良い旅だ。

リンガイアの安宿の屋上のハンモック 『王と悟り』
安宿の屋上のハンモック 挿絵 by 生成AI

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