episode57 『王と悟り』
episode57
娘「もぉ~お母さんまた若い人口説いてんの!」
二十歳かその手前か、年頃の女の子が現れた。カルティエの娘だろう。エプロンを着けながらブツブツ言っている。
カ「いいじゃないか!
イイ男ってのは自分からいかないと射止めらんないんだよ!」
娘「いい年して目キラキラさせないでよ」
ソ「旦那さんがいるんですよね?」
カ「まぁね。でもさ、旦那なんて『キープ』にすぎないだろ?」
ソ「キープ?」
カ「そうだよ。みんな孤独になるのが寂しいからとりあえず恋人作んのさ。大好きってわけでもないが不安が埋まるから付き合うんだよ。旦那はあたしの『キープ君』で、あたしは旦那の『キープちゃん』さ。もっとイイ男いたらヨロシクやんのさ」
ソ「ひどいこと言いますね!」悪気もなさそうに。
カ「みんな同んなじだよ。結婚なんて醒めたもんさ。旦那も同んなじだしね」
ソ「まぁそうかもしれないけど・・・」
娘「もう。そういうこと娘の前で言わないでくれる!」
カ「あんたは違うよ。女にでもババァにも誰にでも話しかけられんだからさ。そういう奴は寂しくならないんだろうさ」
娘「そうよ私は孤独になんか負けないわ」
この母娘は似ているのか、似ていないのか。
カ「あんたさ、『旅してる』なんて女に言わないほうがいいよ?」
ソ「どうしてですか?」
カ「モテなくなっちまうからさ。
女ってのは、いくらイケメンでも優しくても、旅してる男なんて選ばないもんさ」
ソ「あははは、恋人探しの旅じゃありませんよ」
カ「そうは言ったってそろそろ娘の一人は欲しいだろ?」
ソ「そうかもしれないけど、それは旅に飽きてからかなぁ」
すると娘が横から口を挟んだ。
娘「私は旅人でもいいんだけどなぁ~?ママが長期の休みをくれるんならさ!」
少女はソロのテーブルに、頼んでもいないジュースを差し出した。
カ「おぉー、あんたこの男に着いてって射止めておいでよ!
そしたらあたしも毎日この子とデート出来るってもんじゃないか」
ソ「あっはっはっは!」
たくましいもんだ。社会がどうであれ。
カ「ところであんた、皿3つ同時に運べるかい?」
ソ「え?」
娘「もぉ、お母さん!」

改めて街を眺める。
短剣を腰に差す者が多いだけでなく、建物の様子が山の向こうとは異なる。
四角い大きな箱がどかっと置かれただけのような、そんなシンプルな家の造りをしている。
壁の色はどれも薄茶色で白いペンキで装飾が施されている。どこの国にも見たことがない建築文化だ。こういうのが面白い。
そして、どれだけ日に焼けたかでその茶色や白が異なってくる。
そうだ。この国は少々暑い。
ソロは、これからセントベレスの山脈に上るという行商人に、《毛皮のマント》をあげてしまった。村のよろず屋に並び、誰かが買って旅をするのだろう。そういう連なりを想像するのも楽しい。
安宿を探すと、古い建物が密集するエリアにあった。街の中心地と言えるが、建物が古いゆえに安いようだ。通された部屋には窮屈にベッドが並んでいる。窓があるが、開けると隣のビルの壁である。景色もへったくれもない。
居間に出よう、ソロは考えた。もう少し足を延ばせる共有空間があるはずだ。
廊下を歩いていると笑い声がする。その先へ行ってみると、やはり広い共有リビングがあった。
「わははははは!」
4人の男たちがテーブルを囲んでトランプゲームをしている。
男「おぉ、見ない顔だな!しかも遠くの国のヤツじゃないのか?」傷跡だらけの威勢のいい男が、愛想よくソロに話し掛けた。
ソ「えぇ、カレンって国から来たんです」
男「はっはっは!知らねぇな。
どうだい?一緒にトランプやってけよ」
ソ「えぇ」ソロはなんとなく、その輪に加わってみることにした。
男「いいか?同じ数字が揃ったら、それを手元から切っていくんだ。簡単なルールさ」
ソロはカードゲームに参加した。
男「一番負けたら10ゴールド没収だぞ?」
ソ「えぇ!」賭けトランプか、とソロは眉をひそめたが、少々乗ってみることにした。
ソ「30ゴールド。これ以上は使いませんからね!」ソロは軍資金を30ゴールドと決め、テーブルの前にもう置いた。
男「うひひひ。オレのクイーンちゃんの相棒を持ってるのは誰だ!?
う~~~~ん、これだ!
ちぇ!違うじゃねぇか」
ソ「あっはっは!」ソロは人が好きだが、1人や2人と語ることが好きで、グループの輪に入ることをあまり好まない。だからこそ入った。たまにはやってみよう、と。
ソ「今引いたのはクイーンじゃないってことですよね?そしてあなたは1枚クイーンを持っている。ふーむ、なるほど」
男「あ、バカ!オレはクイーンなんて持ってねぇぞ!」
「わははははは!」くだらないじゃれ合いも時には楽しい。
ゲームは進む。
男「よぉーし、こうだ!」
男は、クイーンにジョーカーのカードを添えて、場に切って上がった。
ソ「えぇ!そんなのあるの!?」
男は酔いしれる大根役者のように言った。
男「『神はこの歪(いびつ)な地球に、ジョーカーを1枚置いていった』ってな!
わっはっはっは!」
ソ「なんですか、それ?」
男「古い言い伝えだよ。わっはっは!」
男はまた役者のように仰々しく言った。
男「『神はこの歪な地球に、ジョーカーを1枚置いていった。
誰も困ることがないように。
誰も寂しくないように。』」
トランプに興じると、益々暑くなってしまった。風通しの悪い寝室はとても寝苦しそうだ。店主に尋ねると、「じゃぁ屋上で寝たらいい」と言われた。
屋上に行ってみると、そこにも憩いのスペースがあり、ハンモックが5つ6つ並んでいるのだった。
「こっちのほうがいいや」とソロは思った。若干だが風もある。ハンモックに揺れながら夜を明かした。
良い旅だ。




