episode59 『王と悟り』
episode59
「はぁ」溜め息を付きながら来た道を帰る。
終始不快な思いしかしていないが、しかし決して悪くはない。この独特な雰囲気を持つ市場は、ほっつき歩いているだけでもある意味では面白い。それは旅行風情に溢れている。
市場の出口付近。短剣をたくさん並べる店を通った。エキゾチックな装飾の施されたこの街独特の短剣なのだ。
ソ「いくらですか?」
店「2ゴールドだよ」
ソ「2ゴールド!?」安い!という驚きだ。
短剣はこの街に腐るほどあり、生活品なので安く売っている。さらに余所者のソロにも吹っ掛けなかった、という道理だ。
ソロはその短剣を1つ買った。何かに使えるかもしれないし、使えないとしても土産物として風情がある。2ゴールドならアリだ。

市場は、城壁の一角に接していた。そして近くにも城門がある。
ソロはその城門から外を眺めてみた。
遠く遠くに肌色の山が見える。いいや山じゃない。よく見ると、その丘にはこの街のような肌色の家がびっしりと並んでいる。しかし家は四角形が崩れたものばかりだ。街が古びて廃墟になったのかな、とソロは思った。または戦争を吹っ掛けられて滅びたのか。
そんなことよりも、その肌色の丘を見てソロは重要なことを思い出した。
ペトラ遺跡に似ているぞ!
ソロが最初の目的地と考えていた、赤土の神殿のことだ。クレアが行きたがっていた神秘の神殿だ。・・・あぁ、クレアと会ったことなど遠い昔のことに思える。実際にはまだ数十日前にすぎないが、もう何年も昔のことのように思える。旅の日々というのは、とても長く感じる。
・・・何日経ったのだ?わからない。
1年は旅がしたいと思っていたが、今何日経ったのかわからない。でも良いのだ。何日もさすらい続けていることに充実感を感じている。
もう少しゆっくりさすらうイメージだったが、思いのほか自分はせっかちだなと苦笑いするソロだった。まぁ、一文無しになってしまったゆえもあるのだろうが。
「ペトラ遺跡を知らないか?」と聞き込みを開始した。
すると、南に行ったところにあるという話を入手した。やはり地域的に近いのだった。
目的地は近い。この街でやりたいこともない。が、ソロはまだ先に進まないことにした。宿も食事も、生活物価が安いから、という理由もあるのだが、もう少しお金を貯めたほうがよい気がしたのだ。
サマンオサで会った戦士は8,800ゴールドの剣を持っていた。この先まだ魔物が強くなるなら、そういうレベルの武器も必要だろう。そして防具にしたって、盾やら兜やらそのうち買おうと思っている間にずいぶん来てしまった。それらも上等なものを求めるなら数千ゴールドはするだろう。魔法を買いたいなら、魔導書は1万ゴールドかもしれない。今の所持金4,000ゴールドではあまりにも頼りない。
そういうわけでソロは、この街の付近で魔物を倒しながら金策をした。数日前は寒さとも戦っていたが、今度は暑さとの戦いにもなった。
その間、例のおかみさんの食堂には何度か顔を出した。
戦いに疲れると町を歩く。
立方体の家に、大きな尖塔の添えられた建物がある。教会か?
こうした異国情緒ある文化の国では、メシア教ではない宗教が盛んなことが多いが、ここはメシア教であるようだった。
教会の前で、シスターが両手を組んで空を見上げている。
シ「あぁ神よ。明日の希望をお与えください」悲しそうな顔をしている。
ソ「どうかしましたか?」ソロは声を掛けた。
シ「この町には希望がありません・・・」
ソ「何かあったのですか?」
シ「今日何かあったわけではありません。この町は毎日が曇り空です。
住民の柄は悪く、教会に教えを乞う者も少ない・・・。生きがいがないばかりか、命を狙われる危険すらあります。この町には希望がありません」
ソ「そうですね。でも前向きに笑顔で生きている人もいるようですけど、何かいい方法はありませんかねぇ」
シ「神よ!明日の希望をお与えください!」
シスターの結論はそうであるようだった。
仕事にやりがいを感じられないなら、転職するという選択肢もある。しかし彼女は民の来訪を待つばかりだ。
住む町の治安が怖いなら、移住するという選択肢もある。しかし彼女はこの町から、いや、教会から離れるたくましさを持ち併せていないのだろう。だからこの町の日常が不安と恐怖でいっぱいだ。
神に祈るだけでは、不安は解決しないのだろう。ソロは思った。



