episode82 『王と悟り』
episode82

グ「どうも時間を取らせた」
ソ「お暇(いとま)しましょう」2人は神殿を立ち去ろうとする。
するとハーゴンが2人の背中に声を掛ける。
ハ「あぁ旅のお方」
ソ「はい?」
ハ「気が向いたらでよろしいのですが・・・
この神殿の巫女に一人、男に服従するのが嫌になって出ていった者がいました。名前はアテナ。
私は彼女のことが気に掛かっています。どうしていることやら・・・。
丘の上のあたりに彼女のエネルギーを感じてはいます。古代の神殿をねぐらにして生きながらえているのかな。良かったら彼女の安否を確認してやってはくださりませんか?
そして一言お伝えください。『ハーゴンは怒っていない』と」
ハーゴンは怒ってはいない。連れ戻す気もない。ただ安否を心配しているだけだ。
ソ「あ、はぁ」
まだ「行く」とも「行かぬ」とも言えないのだった。約束は必要なさそうだ。後で考えよう。
2人はそこを去ろうとした。すると今度は女の子たちに呼び止められる。
●ピュアリ

年齢:16歳 誕生日:9月21日 身長:154cm
ピ「アテナお姉さまのところに行くのですか?
どうかアロエの苗をお土産に持っていってあげてください!アテナお姉さまはそれが大好きなのです」巫女の子たちであるようだ。
ㇵ「彼女はピュアリ。
謙虚な子なので名乗りませんでしたが、アテナには名を報(しら)せてあげたほうが報われるでしょう」
神殿を離れる。
ソロは感慨深げに言う。
ソ「身勝手な男たちのために結界を張るなんて、辞めちゃえばいい気もしますね」
グ「『何かに仕えたい』『誰かに尽くしたい』と感じている者も居るのだよ。大衆が遊び呆けているとしても、自分は誰かのために透明に生きていたいのだ。それは一つの欲求だ」
ソ「わからないこともないんですけどね」
グ「仕えたいなら、尽くしたいなら・・・、誰の尻なら拭いたいのか、自分で考えて主を決めるべきだ。
その『選択』まで意識が回らない者もいる。選択したいと思っていても、その自由がない者もいる。その選択が幼稚な者もいる。自分には自由がないと思い込んでいる者もいる。
『仕えたい』という思いは崇高だが、それが結実するためには、彼女もまた人生の模索が必要だろう。そのように思う。
その人に尽くすことで野に花が咲くのか?まずはそれを想像しなければならない」
グレイグが言うこの言葉は重みがある。
グレイグにとってソロは旅友達だが、またある意味ではソロに尽くしたい気持ちがある。
街中へ戻ってきた。
グ「行くか」アテナの安否確認のことだ。
ソ「えぇ」その3文字で、ソロは行き先を察知した。
まずは花屋を探す。アロエを買うのだ。
それは町で豊富に売られているようだった。花屋ではない店にも売られている。
アロエの鉢を1つ買うと、店主に尋ねる。丘の上の神殿とはどこだ?と。
それは街の北側にあるという。北の城壁門を出るのが良いようだ。
城壁門からは、北方へ伸びる馬車道がうっすらと姿を残していた。これももう朽ちている。ずっと昔に道が敷かれ、しかし整備されることもなく朽ちていったのだろう。
道の遥か先には丘が見える。ソロには山に思えるが、この程度の高さのものを丘と呼ぶ人々もいる。しかしとにかく、目的地はわかりやすい。
汗をかきながら歩を進める。太陽はもはや、遥か上空から我らを狙う魔物のように見える。陽光はときに癒しであり、陽光はときに攻撃魔法だ。
グ「そなた、暑さにも強いな」グレイグはソロに言う。
ソ「いやぁ、強いとも言えないですよ」
グ「しかし弱音の1つも吐かないではないか」
ソ「何も考えないようにしてるんです。はは」
「暑い」と嘆くと余計に暑くなる、ということだ。
ソロの体はそうタフではないが、困難を耐えるコツを知っていた。そう。暑さに限らず自分を包み込む困難に対して、そこにフォーカスしないように努めている。それを嘆かないように努めている。
だから彼は、見た目に比べて意外と強いなというギャップを生んでいる。そして、人がもっと強くなる可能性を背中で示している。彼がやっていることはおよそ誰でも出来るのだ。グレイグのような筋肉をまとえるのは一部の人間だけだが、「嘆かない」というソロの心がけは、誰でもまとえる。
ソ「旅行してるのに、暑っついなか山にまで登って他人の問題に首突っ込むなんて、バカげてるなとも思うんですけど、これが楽しいなとも思っちゃうんです」
グ「ははは」
道すがら、何か大きな塊を見つけた。
馬車の残骸だった。
「馬車があればもっと楽だな」とたびたび頭を過(よ)ぎってもいたが、そういう問題でもないようだ。馬車や馬も、灼熱の太陽か何かにやられてしまうことがある。馬車に依存する人間は、同時にここで干からびるのだろう。
馬車に頼るのは、馬車に頼らなくて済むようになってからだ。僻地まで行きたいのなら。便利なものすべてに言えるが。
グ「何か見えるぞ」
ソ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ついに、丘の上の建物をグレイグは視認した。あと40センチ登って、ソロにもそれは見えた。
ソ「神殿、っぽいですね」
グ「我々の目的地だろう」
登山はきついが、この辺りに魔物の姿はないのだった。神殿の力だろうか。神殿から何かを放つ者の力だろうか。



