episode84 『王と悟り』
episode84

アテナに乗り移ったシリウスは、グレイグに語る。
シ「あなたには、1つ弱点がありそうです」
グ「なに!?」
シ「色仕掛けです」
グ「なっ!」
ソ「色仕掛け!?恋愛のことですか?」
シ「そうです。
あなたは恋愛の免疫が薄い。
『あなたを愛しているからこの街で一緒に暮らして』と胸の大きな女性に言われたら?
『どうか助けて』と美しい娘に言われたら?
愛か情が、いずれにしてもあなたは、歩みを止めてしまう恐れがある」
グ「・・・・・・!」グレイグは反論が出来ない。
シ「そして・・・。
そんな娘は魔物が化けた姿である可能性があります。あなたは殺されてしまうか、力を奪われるか、とにかく戦闘不能にさせられてしまう」
グ「なんと・・・!」
シ「ふふふ。しかし不幸中の幸い、女に鏡を見せるのはとても簡単です」
ソ「ははは」
グ「なる・・・ほど」
グレイグはすべての話を受け入れた。謙虚な男である。
グ「女に、現(うつつ)を抜かしてはいけないのだ。わかっています」
シ「しかし、誰しも恋をしたいのです。
グレイグ。この冒険が終わったなら、オリンピアの北に道を敷きなさい。次のあなたの使命です」
グ「道を?」
シ「オリンピアの北に。この丘に向けて。
馬車が通れるように。か弱き巫女たちが、この丘に向かえるように」
ソ「巫女たちの修道院だ!」
シ「そして。そしてグレイグ」
グ「は、はい」
シ「あなたはこの神殿の番人をしなさい。女の園の、番人をしなさい」
グ「なんと!
しかし。それは私には荷が重い。
女ばかりに囲まれては・・・」
シ「よいのです。よいのですよグレイグ。
すべてが終わった後なのであれば。
巫女のうちの幾らかは、あなたに恋をするでしょう。崇高な精神を持った女は、崇高な精神を持った男が好きです。
彼女たちの恋心に、応えてあげてください」
グ「・・・・・・は、はい」グレイグは頬を赤くした!
シ「あなたも良い年齢です。恋への憧れが抑えきれないとして不思議じゃない。
でももう少しの辛抱です。あなたは恋を求めて国(いえ)に閉じこもっているべきではない」
グ「わかっていますとも」
シ「それに、あなたは旅先で出会う宿命なのです」
ソ「え?」
シ「運命の女性(ひと)に。あなたは最高の恋人と、旅先で出会う宿命なのです。
だからもう少しの辛抱。あなたには愛でも報われてほしいから、だからこそもう少しの辛抱です」
グ「興味深い話ですが、私は出会っても気付けないかもしれませんな。そういうことに疎いもので。口説き文句も知らないのです」
シ「ふふふ、大丈夫です。
運命の相手というのは、女性の側が察知するものです。『この男だわ!』とわかる。
そしてグレイグの魂の片割れは、自分から男に声を掛ける積極性を持っています。
あなたは・・・恋に現(うつつ)を抜かさないことで恋に報われる宿命(さだめ)を持っています」
グ「ははは。気休めだとしてもありがたい」
ソ「いいなぁ」
シ「ふふふ。ソロ。あなたに恋する乙女も現れるでしょう。それはおそらく・・・賑やかになるでしょう」
ソ「《ラーの鏡》は2つありませんか?」
シ「ソロ。あなたに《ラーの鏡》は必要ありません。
あなたは人並みに性欲を持ちますが、自制心が凄まじく高い。
乙女に口説かれても、今深入りすべきでないと思えば頑なに我慢をします。あなたに《ラーの鏡》は必要ない。
グレイグ?もう1つ注意点があります」
グ「なんであろうか?」
シ「ソロに嫉妬心を抱かないこと。
彼はあなたよりも女にモテるでしょう。それは悔しいかもしれませんが、嫉妬心に負けないでください。あなたたち2人が険悪になるのは、この世の危機です!」
グ「それなら大丈夫だ。私はこの男にもう負けを降参している。だから着いてきた」
シ「年下だというのに、負けてよいのですか?」
グ「あぁ。ガンディーノの城でもう、徹底的に見せつけられた。何も敵わない。
ソロがハンサムなのも、優しく、愛想が良いのもわかっている。
知恵を比べても勝てない。
力比べは勝てるだろうが・・・『戦い』となるともう勝てるかもわからぬ」
ソ・シ「えぇ!?」
シ「ガンディーノ一の将軍がですか?」
グ「奇策に嵌れば、戦いとは一瞬で終わる。
私も奇策は打てると自負している。が、この男は私の奇策を見破りそうだ。しかし私はこの男の奇策を見破れそうにない」
ソ「そんなぁ。僕だってわかんないよ!」ソロは恐縮に赤面する。
シ「恋の話をしていたのに、戦いの面まで自らプライドを折るのですか?」
グ「それくらい降参しているほうが、やりやすい。だから着いてきたのだ。
しかし私はこの男と旅をしながら、色々なことを学ぶ」
ソ「学び合う、んですよグレイグ将軍!」
シ「素晴らしいですグレイグ。あなたは素晴らしい。
こんなにプライドを克服した強者を久しぶりに見ました」
グレイグは無表情でアテナの顔を見つめ返した。
高飛車にならずに教えを請うものは、飛躍的に成長するものだ。
シ「・・・少し脱線しすぎる感もありますが・・・思いついたので聞いておきましょう。
グレイグ?もし・・・、もしソロと戦わなければならなくなったら、どうしますか?」
グ「回答が的確ではないだろうが・・・、
戦うことはないでしょう」
シ「え?」
グ「私は、この男とケンカになることはないだろうと思っている。
ソロは、支配欲もプライドも欲もなければ暴力性もない。私の大切な何かを傷つけることはないだろう。すると、私が歯向かいでもしないかぎりケンカが起こることはない。しかし私はこの男とケンカする気がない。
ケンカの起こるイメージが湧かないのです。私が愚かにならないかぎりは」
シ「あっははははは!素晴らしい回答です。
良い友を得ましたね、お2人とも。私は目頭が熱くなります」
ソ「ぽかーーーん」ソロは何とコメントを挟んでよいかもわからなかった。しかしグレイグの回答は正しい、とソロも思った。グレイグとの間にケンカが起こるイメージが湧かない。



