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episode85 『王と悟り』

1 日前
読了時間: 3分

episode85

アテナ(シリウス)
アテナ(シリウス)

大きく風が吹いた。柱ばかりで壁のないオリンピア風の神殿は、風が中に入ってくる。その風は緑の葉をさやさやと揺らした。

ソ「あぁ、僕たちお使いで来たのです!

 このアロエの鉢を、アテナさんに渡すようにって。

 ピュアリって言ったかな。巫女の女の子です」

ソロは彼女にアロエの鉢を手渡した。

シ「どうもありがとう」

グ「ハーゴン神官は、あなたを怒っていないよ、と申しておった」

シ「はい。どうもありがとうございます。アテナに伝えておきます」

ソ「そうか。まだ今シリウスさん」

シ「記憶は共有できます。ご安心を」

グ「アテナ殿は、気丈にしているということだな?」

シ「えぇ、大丈夫です。

 ここに来てしばらくの間は、孤独と憂鬱で落ち込んでいましたが。

 しかし孤独を覚悟でここに来ました。人が欲しいなら他の街に行けばよかった。でも彼女はこの丘の神殿を選びました。

 そして、彼女も奥の古代遺跡に行きました。

 彼女はそこで、古い書物を読みました」

ソ「読書が好きなのかな」

シ「ヒボンという国の、古い神話の本です。

 アマテルという女の神は、民の堕落にひどく落ち込みました。何を言っても民は聞く耳を持ちません。

 彼女は啓蒙に疲れて、洞窟の中に一人籠ってしまいました。しばらくの憂鬱な日々を過ごしたあと、それでも人と交わりたいと思う自分に気付きました。

 アマテルは天の岩戸をこじ開けて、再び地上に出てきました。

 アマテルは、すべての民に善意を持たせることは諦めました。出来ることだけをやろうと。

 肩の力を抜くと、アマテルは元気になりました。

 そして彼女は言いました。

 『失望の果てに、枯れない花は咲く』と・・・。


 アテナは、この神話を読んで元気を取り戻しました。

 そしてこの神殿の中に、外に、せっせとアロエの苗を育てました。

 自分が生きていく糧を、100年生きていくための糧を。

 そして・・・」

ソ「他の巫女の食べる分まで!?」

シ「そうです。 

 いつか、ひょっとしたらいつか、1人か2人の巫女がこの神殿にやってくるのではないかと夢見て。誰も来ないかもしれません。でも、来るかもしれません。

 来ないとしても、植物を育てることは良い暇つぶしになり、良い気分転換になります。アテナは悲しみを忘れて、無心でアロエを挿し木し続けました」

グ「この神殿に咲いている緑は・・・」

シ「そう。アロエばかりです」

ソ「お土産、無駄になっちゃった!あははは」

シ「そうですね。しかし無駄とも言えません。

 オリンピアの街から、巫女ではなくアロエの鉢がやってきただけだとしても、それはアテナにとって大きな喜びであり、大きな希望です。

 この小さな贈り物はよもすれば、小さな火種です。巨大な光に膨れ上がるかもしれない、計り知れない小さな火種です。

 種は尊い。

 芽は尊い。

 その中にある可能性を、見つめるなら・・・!」

ソ「そうだ!そうだと思います!」

シ「そしてあなた方は、その尊い希望をアテナに運んでくださったのです。

 あなた方が運んでくださったからこそ、この苗は意味を持つ。

 ありがとうございます」

ソ「いやいや、大したことはしていないです」

シ「オリンピアの民もいつかは、自分ごとだけに留まらず知らない国まで『生き延びるため』の火種を運んであげられるように、なってほしいものです」

シリウスは遠い目をしながら言った。

グ「請け負ってよかったな。

 とても気分がいい」

シ「ささやかながら、休息をお与えします。

 明日には古代神殿に行くのでしょうか」

グレイグは確信するのだった。魔王を倒す旅を終えた後には、オリンピアの北に道を敷こうと。世界で一番強い戦士は、道路工事夫になろうと決めた。


シリウスは丘を見下ろしながらささやいた。

シ「『生き延びるため』の火種を運んであげられるように、なってほしいものです・・・」

それだけの体力はもう充分にある。あとは、心だ。


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