episode86 『王と悟り』
episode86

翌日、ソロとグレイグは古代神殿とやらに探索に出た。
グ「そろそろ着るぞ」グレイグは自慢の重鎧を装備することにした。
丘の上は植物が茂っていた。緑が芽吹き、花も咲いている。それはオリンピア周辺の殺伐とした、男性的な雰囲気とは一線を画していた。アテナが緑を広げたのだろうか。
また、丘の上は幾分涼しい。標高が高くなると気温は下がっていくものである。

朽ちた遺跡に辿り着いた。
それは立派でありつつ、物悲しくもあった。建築様式はオリンピアや丘の上の神殿に似ている。しかしサイズがとても大きい。まるで巨人たちが暮らしていたのではと思うほどだ。
この古代遺跡の建物を、オリンピアの文明は真似たのだろうが。
中は魔物が巣食っているのだった。巣食っているのか、放たれているのかはわからないが。
グレイグがいれば魔物なんてどうってとこないと楽観していたが、そうでもないのだった。幻惑を見せる《マヌーサ》を使う魔物や、《スカラ》で守備力を固めてくる魔物、剣で斬ると分裂してしまう魔物と、厄介な性質を持つものが多くいた。魔法で抗戦したほうが良いと思える、そんな魔物が多い。
力自慢の男が多いオリンピアの土地だ。しかし巫女なる女たちがいる。巫女とは、魔力の才能を秘めた者たちのことだろう。この構図は示唆に富んでいる。
巫女たちは本来、神殿に閉じこもっているだけが仕事ではなかったのかもしれない。そして、町の外に飛び出していくポテンシャルを持っているのはアテナだけではないのかもしれない。
いやこのグレイグという男は、魔法すらも操って見せるのだった。
「《メラミ》!」という叫びとともに放出される炎は、敵単体にしか及ばないが威力は《ベギラマ》の2倍に及ぶ。この人を1対1で決闘させたら、もはや誰も敵いそうにない。
《ベホイミ》という回復魔法すら使って見せるのだった。
「戦いは万能でなければ始まらない」とグレイグは言った。
彼は勇者か誰かと協力したいと言っていたが、この人が他者との協力を必要としているとは思えない。何にせよ自己解決できてしまいそうだ。とソロは思った。
そして朽ちた大きな神殿は、巨大な迷路になっていた。巨大な建物というのは、そもそも部外者にとって迷路のようである。それが朽ちてあちこち塞がったり、壁が突き破られていたりすれば、なおさら迷宮のようになってしまう。
王の間のような場所にたどり着き、「すると近くに王の寝室があるだろう」とグレイグは言った。
王族の寝室らしき場所に、2人は《ラーの鏡》を見つけ出した!

アテナの神殿へと戻る。
無事に《ラーの鏡》を見つけ出したことを報告する。
また一晩の休息を貰う。
去り際、シリウスは意外なことを言うのだった。
シ「私からも、お使いを頼まれてはいただけませんか?」
ソ「えぇ、何でしょう?」
シ「これを」
そう言ってシリウスが差し出すのは、なんとアロエの鉢であった。
シ「アテナのアロエです。
これを、オリンピアの神殿の巫女に届けてはいただけないでしょうか」
ソ「何か不思議な力があるんですか?」
シ「えぇ、癒しの力が少しは強いですが、そういうことではありません」
グ「というと?」
シ「これを見て、何かを感じとる娘(こ)がいるかもしれません。
何かを考える娘が、いるかもしれません」
グ「承った!」
シ「・・・心優しい冒険者たちよ。
オリンピアにあまり大きな変化を期待しないでくださいね」
ソ「どういうことですか?」
シ「町の平穏を決めているのは、一人ひとりの女たちです」
グ「男たちの荒さや愚かさがオリンピアの問題なのであろう?」
シ「はい。しかし、そんな男性を選ばなければよかったのです。
子供には、親に似た性格の魂が宿ります。
特に男の子には、父親に似た性格の魂が。
乱暴な、スポーツしかしない男を選んで妊娠に至るから、乱暴な男の子を生んでしまいます。乱暴な男の子を、また一人町に増やしてしまいます。
オリンピアの治安が今のようになったのは、ある意味では女性たちの選択の結果です。
なぜその夫を選んだのか?なぜその彼氏を選んだのか?
女たちが自分の心に問えば、そこに何らかの弱さや愚かさを見つけるでしょう。
働くのが嫌だったから乱暴でも貢いでくれる男に体を開いた、そんな経緯が見えてきます。
町の女の一人ひとりがそんなカルマに気付き、生き方を、セックスを改めないことには、町の治安は変わりようもありません。
町全体が平穏になるまでには、少なくとも何十年を費やすでしょう」
ソ「だから逃げ場を作りたいってことですよね?」
シ「そう。そういう思いです。
男に頼らず、男選びを間違えず、自分の足で生きようとする女は、アテナのそばを目指すでしょう」
●シリウスのビジュアル

190cm
2人はもと来た道を淡々と戻った。下りは上りよりは楽である。
今日は心なしか先日よりも曇っている。または、少しの冒険によって体が強くなったゆえに、少し楽に感じるようになったのかもしれない。

オリンピアの街に戻り、まっすぐ神殿を目指す。
神官を探し、そして先日声を掛けてきた少女ピュアリを探してもらう。
「神殿の巫女に渡してくれ」としか頼まれていないが、きっと「アロエのお土産を持っていけ」と言ってくれたピュアリに渡したほうがよいのだ。

モノの価値は、人によって大きく変わる。時と場合によって大きく変わる。
不思議なものだ。
感受性によって、大きく変わる。



