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エピソード11 『ミシェル2 -世界の果て-』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月24日
  • 読了時間: 3分

エピソード11

どこに行けばいいの?

何もわかんないわ、私。アテが無さすぎる。

ママは仕事や旅行で幾つも海外に行ったことがあるけれど、

さすがにあのポストカードを見せて、「これはどこ?」って聞けないわ。

飛行機は高すぎるから、飛行機も却下。

私はフェリーでバルト海を南に渡ってみることにしたの。エストニアを目指して。



フェリーって、行って当日に乗れるのかしら?

飛行機みたいに事前にチケットを買っておかないとダメなのかとハラハラしたけど、

無事、乗れたわ。値段も変わらないし。

大きな船よ。1,000人以上は乗れそう。

レストランもバーもいっぱいあって、カジノまであるの。

たった3、4時間の船旅でカジノなんかやるのかしら?

きっと、長距離海路を走ることもあるのね。何日も掛けて、遠い国に行くんだわ。

私はお金を節約しないとだから、レストランで食事もできず、

甲板で海を眺めていたわ。

でもレオの言ったとおりよ。

レストランで食事してたら、ここが船の上なんて実感できない。

甲板に出ていれば、見慣れない川面と両岸ののどかな村を堪能できる。

釣りをする人を見かけたわ。釣った魚を夕食にするのかしら?

釣れなかったら?夕飯は抜き?家族みんなからデコピンでもされるのよ。

子供たちはサッカーをして遊んでる。河川敷でよ?ボール落ちたらどうするの?

ずぶ濡れになって拾いにいくのよ。

北の森に別荘を持つ人たちだって、

サウナに入ったあとは冷たい湖の中に飛び込んでいくの。

慣れればどうってことないのよ。たぶんね。

ちょうどフェリーが汽笛を鳴らした。

船のお通りに気づいた少年たちは、顔をこっちに向ける。手を大きく振ってる。

誰に振ってるの?私じゃないかもだけど、私は振り返す。

久しぶりに笑みがこぼれる。

うふふ。旅っていいじゃない。

レオも、こんなことばかりやってるのかしら。

毎日毎日知らない風景を眺めて、そして知らない人たちに手を振る。



やがて船は、対岸に到着したわ。

人々は黙々と、時には楽しそうに下りていく。私もそれに交じって外に出る。

エストニアの港はとても殺風景で。コンテナとカモメしか見かけない。

きっとあくまで中継点なのね。人が住む場所じゃない。

案の定、タクシーがたくさん待ち構えているわ。

これに乗ればどこにでも行けるけど、でも、どこに行くの?私。

私はタクシーの1つに声を掛ける。

運転手の彼は何も言わずに、ただ私の顔をじろっと見る。

「行き先を告げろよ」とでも言ってるつもりなんだわ。

私の国のタクシーより、ちょっとガラが悪いように見えるわ。

私は、彼にポストカードを見せる。

「この場所に行きたいの。」言葉通じるのかしら?

彼はポストカードをのぞき込むと、

そっぽを向いて手をぶんぶんと振る。「話にならん」とでも言いたいのよ。

「ダメなの?乗せていってください。」私は丁寧に言う。

「これはどこだよ?タリンでもなければエストニアでも無ぇだろう?

 大金積まれたってアフリカまでは行かねぇぞ。」

「アフリカなの、これ!?」

「知らねぇ。もののたとえだよ。めんどくせえな。」

とりあえず言葉は通じるわ。口は悪いけど。

「アフリカなのかしら…。」

「とりあえず、旧市街まで出てみればいいだろ?

 そうすりゃ都会人が大勢いる。誰かに聞きゃ知ってるよ。」

「そうね。そうするわ。

 乗せてください。旧市街まで。」

彼は私を乗せると、いや、私がまともに座りこむ前にもう車を走らせた。

でも、ものの3分よ。

「着いたぞ。」

「え、もう?」

「あぁ、旧市街だ。」

なによ、歩いて10分なら最初からそう言ってほしかったわ。

10分くらいどうってことないんだから。私、お金を節約しなきゃならないの。

そうは言わないわ。黙ってお金を払う。100マルッカ。

これだけで私のパン屋の労働の1時間分!?信じられない。


『ミシェル2 -世界の果て-』

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