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エピソード12 『全ての子供に教育を』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月15日
  • 読了時間: 3分

エピソード12

ナンから30分も走ると、景色は山がちになった。

道も満足に舗装されていない。

幌付きの乗り合いトラックは、

思いのほかたくましく、砂利道を駆け抜けていく。


俺は時々、助手席を離れ、後ろの荷台に乗った。

本来、客たちはここに乗り込むのだ。

日本では許されていないが、発展途上国では荷台が立派な客席となる。

俺は、ゴミ収集車の集配員みたいに、掴まり立ちしながら乗っていた。

車が跳ねるたびに俺の身も危うくなるが、それで良い。

遠ざかる景色を、ただただ眺めている。

砂ぼこりが煙たくて仕方ないが、それで良い。

どこかの古いロードムービーみたいだ。

旅している実感がある。生きている実感がある。

思いのほか面白い。俺は上機嫌になった。



やがて、俺たちは車を降りる。

道沿いの役所のような施設内に、車を置かせてもらうらしい。

ここからは、歩きだ。トレッキングだ。


なぜ、山歩きをしなければならないか?

当然だ、山岳民族は、山奥に住んでいるのだ。

まぁ、部族にもよるようだが、たいていは人里離れた深い山奥だ。

当然、車では入っていけないのである。


俺は、足腰に自信があるほうではない。

パソコン仕事なんぞしているのだから、体育会系ではないのだ。

子供の頃、親父と参加したトレッキング・ツアーでは、

ずいぶんくたびれ果てた記憶がある。最後は親父におぶってもらったのでなかったか。

今頃になって、それを思い出した。

大丈夫なんだろうか?俺は、踏破できるのか?


利典さんは、山歩きには慣れているようだった。軽快なリズムでさくさくと歩く。

最初は、見栄を張って同じペースでついていったが、

30分も経たないうちに、諦めた。

ペースを落としてもらった。せっかく俺個人のプライベート・ツアーなのだ。

俺のペースを尊重してもらったほうが良い。

典さんは、俺の体調を配慮しながら、ちょくちょく休んでくれた。

とは言え、もちろん、休憩所など無い。

自販機が無いのは言うまでもなく、切り株のイスすら、無い。


山道は、ひんやりと冷たい。それだけが救いだ。

同じような道が、延々と続いていく。

道と言っても、舗装されていたりはしない。

遠い昔から、無数の通行人が踏み固めて、この道を作り、維持しているのだろう。

もし、3ヶ月間も誰も通らなかったなら、

たちまち草が生い茂り、どこが道だかわからなくなるかもしれない。

考えてみただけでゾっとする。

いや、里に住んでる者たちは良い。大して困らない。

山奥に住む山岳民族たちは、里に降りてこられなくなるんじゃないか。


俺は、そのような戯言を利典さんに話してみた。

利典さんは、笑って答える。

「むしろ、逆じゃないかな(笑)」

「え?」

余計な言葉は挟まない。歩くので精一杯だから。

「山岳民族たちは、里に行こうなんて考えないのだと思うよ。

 …近年はそうでもないけど、少なくとも昔は、そうだったろうと思う。」

「でも、買い出しは?」

「買い出しなんて、しないでしょうよ(笑)

 山の奥に住む彼らは、そこで生活が完結しているんだよ。

 必要なものは、全て周りにある。

 無いなら、周りのものから作り出す。

 日本人とは違って、地球の裏側の石油に依存したりは、しないんだよね。」

利典さんは、喋りながら歩いても、ほとんど息が切れない。

肺活量や体力の差を、痛感させられてしまう。

年収は、俺のほうが倍以上だろうが、

かといって、それが何の優位性にも結びついていない。何の幸せにもなっていない。


「利典さん、体力ありますねぇ。」

俺は、思わず畏敬の念を示す。

「あははは。僕なんてペーペーだよ?

 地元タイ人のガイドたちは、もっと軽やかにトレックするよ。

 団体客の列をぐるぐる見回りながら、つまり、終始小走りで、トレックし続けるよ。」

「文化の違い…かな。」

はぁ、はぁ。頭が働かなくなってきたから、そんな言葉で片付ける。


『全ての子供に教育を』

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